電通「過労自殺」事件から5年 “命を削る働き方”がはびこる社会は変わったか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
電通の新入社員が過労自殺した日から5年。コロナ禍で在宅勤務が広がり、残業が減った企業がある一方、エッセンシャルワーカーは異常な働き方を強いられている。「人」をコストとして見る発想がある限り、長時間労働はなくならない。“不便”を受け入れることも必要だ。
「便利」を求め続ける限り、長時間労働はなくならない
とにもかくにも、コロナ感染拡大が一向に収束しない状況下で、企業がいかに「人」を単なる労働力としてしか見ていなかったのか、歴然たる事実として明かされたのです。
もっとも、5年前の痛ましい事件が注目を集めたことで、残業時間が厳しく規制されるようになり、やっと、本当にやっと残業を減らす機運は高まりました。
しかし、そもそも残業を生んだ「人を雇い入れるより残業させた方が便利だ」という発想が淘汰されない限り、長時間労働はなくなりません。そのためには、「労働者である以前に人間である」という人権教育が必要ですし、「私たちは『労働者』である前に、『人』という霊長類の動物である」という当たり前の認識に基づく法整備が必要不可欠です。
具体的にいえば、インターバル規制の法制化です。
EUでは、すでに93年からインターバル規制が導入されており、「1日の仕事の終了後に11時間の休息を確保しなければならない」とされています。もちろん罰則付きです。
仕事の終わりから次の仕事の始まりの時間まで、確実に11時間あければ、睡眠時間を6時間程度確保できます。6時間は心身の休息のために、最低限必要な睡眠です。
そして、私たち自身も意識を変えなくてはいけません。「不便さ」を受け入れる生活様式です。
エッセンシャルワーカーは、私たちの生活を支えてくれている労働者ですが、私たちが便利さを求めれば求めるだけ、働く人たちは酷使されていくことを、忘れないでいただきたいと思います。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)
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