ガソリン車禁止の真実(ファクト編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)
年末の慌ただしい時期に、自動車業界を震撼(しんかん)させたのがこのガソリン車禁止のニュースだった。10月26日の菅義偉首相の所信表明演説と、12月11日の小泉進次郎環境大臣会見が基本になるだろう。カンタンにするために、所信表明演説を超訳する。
まずは会見の抜き出しから挙げよう。面倒ならまた超訳から読んでも話は分かる。
12月11日 小泉進次郎環境大臣会見(抜粋)
環境省として2030年に地域での再エネ倍増を目指す脱炭素政策パッケージに集中的に取り組みます。今日はその端緒となる取組、「再エネ×電動車」、これについても3点御紹介したいと思います。
1点目、これは地方環境事務所を含めて環境省が率先実行します。再エネ導入については、環境省は既に2030年までのRE100、再生可能エネルギー100%を宣言して、各省庁に先駆けて取組を進めています。今回更に率先実行を進めるべく、2030年までにEV100に向けて取り組みます。
2点目、この2点目は地方支分部局を含め、政府全体で率先実行します。先日、河野規制改革担当大臣とともに、各府省庁の施設において令和3年度の電力について再エネ比率30%以上の電力調達を依頼しました。さらに、地球温暖化対策推進法に基づく政府実行計画を見直し、再エネ電力や電動車の調達を含め、対策を大幅に強化する予定です。
そして3点目、これは民間での普及です。今回、補正予算には脱炭素化に不可欠なEV、プラグインハイブリッド、PHEVですね、そしてFCV、そして再エネ調達をセットで導入する場合の集中的な支援を盛り込むこととしています。これは、今日夕方に閣議がありますので、その後に詳細はお話をしますが、単に車両の導入にとどまらず、個人向けに再エネ電力とセットで導入する取り組みを支援することは我が国初であり、国民の皆さまには、この予算を有効に活用していただきたいと思います。
〜中略〜
これは環境省が調達をする自動車、公用車ですね、これを2030年までにEV、FCV、プラグインハイブリッド、この3つにする。ハイブリッドは含まない。これがEVなので。今さまざまな報道が出ています。例えば東京が2030年以降はガソリン車を販売禁止、そんな話も出ていますが、環境省としてはガソリン車の調達を2030年以降はしない、そういったところです。
ここから超訳だ。「環境省はRE100とEV100をやります」。RE100とは、企業が使用する電力の全てを再生可能エネルギーだけでまかなうということを指し、EV100は、企業が生産や営業に使う全ての車両を電気自動車(EV)にすることを目指すものだ。
ここでキーになるのは「環境省は」の部分で、これが誤読されやすい。「監督官庁としての環境省が全ての企業にこれを義務づける」とも読めるのだが、注意深く読むと「率先実行を進めるべく」という言葉から、これが「環境省で使うクルマは」であることが分かる。さらにいえば「中略」以降では、それをさらに明確に言っている。
RE100もEV100も環境省が省の調達分だけでやるのなら簡単な話だ。というよりむしろ今までやっていなかったのかという話でもあるし、それで会見を開くのかと思うほど些末(さまつ)である。政府が目標に掲げた、「攻略の糸口さえまだつかめぬカーボンニュートラル」に対して、「千里の道も一歩から」感が極めて強い。アドバルーンとしての効果はあるかもしれないが、カーボンニュートラルどころか、わが国のCO2削減への寄与は測定不可能なレベルである。
関連記事
- 新燃費規程 WLTCがドライバビリティを左右する
ここ最近よく聞かれるのが、「最近の新型車ってどうしてアイドルストップ機構が付いてないの?」という質問だ。全部が全部装備しなくなったわけではないが、一時のように当たり前に装備している状況でなくなったのは確かだ。それに対してはこう答えている。「燃費の基準になる測定方法が変わったから」。 - ようやくHVの再評価を決めた中国
中国での環境規制に見直しが入る。EV/FCVへの転換をやれる限り実行してみた結果として、見込みが甘かったことが分かった。そこでもう一度CO2を効率的に削減できる方法を見直した結果、当面のブリッジとしてHVを再評価する動きになった。今後10年はHVが主流の時代が続くだろう。 - 暴走が止まらないヨーロッパ
英政府は、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を、ハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHEV)も含め、2035年に禁止すると発表した。欧州の主要国はすでに2040年前後を目処に、内燃機関の新車販売を禁止する方向を打ち出している。地球環境を本当に心配し、より素早くCO2削減を進めようとするならば、理想主義に引きずられて「いかなる場合もゼロエミッション」ではなく、HVなども含めて普及させる方が重要ではないか。 - EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。 - 自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変
「最近のクルマは燃費ばかり気にしてつまらなくなった」と嘆いても仕方ない。自動車メーカーが燃費を気にするのは、売れる売れないという目先のカネ勘定ではなくて、燃費基準に達しないと罰金で制裁されるからだ。昨今の環境規制状況と、それが転換点にあることを解説する。各メーカーはそのための戦略を練ってきたが、ここにきて4つの番狂わせがあった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.