自販機1日の売り上げは1000円未満 ダイドーが“鬼滅缶”で増益を達成できた理由:ビジネスの構造(3/4 ページ)
鬼滅の刃とタイアップした缶コーヒーがヒットしたDyDo。発売から3週間で累計販売数が5000万本を突破。自販機ビジネスの収益モデルとは?
ブームの前から鬼滅の刃を“発掘”していた
業界中堅のダイドーが、鬼滅の刃とのタイアップを獲得できたのには、ワケがある。
ダイドーは主力の缶コーヒーにおいて、単一の豆の味わいをウリにするのでなく、さまざまな豆をブレンドすることでおいしさを実現する手法にこだわってきた。それぞれの豆の個性を生かした“ブレンド”で、缶コーヒーという“作品”を生み出すブランドコンセプトを有している飲料メーカーだ。
そんなダイドーは、さまざまなキャラクターが登場し、その個性を“ブレンド”しながら、物語の世界観を作り出していく鬼滅の刃を、ブームになるずっと前から注目し、“発掘”していた模様。粘り強くタイアップを呼びかけ続けた結果、20年10月という、まさに鬼滅の刃ブームが巻き起こったタイミングでのコラボ商品を実現させた。
タイアップでの売り上げアップが利益増に直結する
創業家出身の高松富也社長のもと、収益構造の改革を図った中期計画を実行中のダイドー。前期に先行投資をしたこともあり、減益となっていた。今期は広告費を抑えていたことや、自販機の会計処理を変更したことによる経費計上額の減少という要素もあった。一方、コロナの影響でオフィス内や都心部などの自販機需要は落ちており、自販機チャネル全体の売り上げは減少していた。こういった状況での大幅な利益回復は特筆すべきものだろう。
自販機で扱う飲料のなかでも、ダイドーが主力とする缶コーヒーは、容器の原価が抑えられているといった理由から、一般的に利幅が取りやすい。
さらに、鬼滅ブームを追い風に、値引き販売が回避された。ダイドーは、もともと値引き販売をしない方針を掲げていたが、競合する自販機が価格訴求をしてきたら、対抗せざるを得ない状況が頻発していたとみられる。しかし、鬼滅の刃効果で値引き対応も回避できたようだ。
筆者の事務所は東京・日本橋の兜町にあり、付近に競合飲料メーカーのP社とダイドーの自販機が設置されている。前者の自販機は定番の缶コーヒーを90円で売っているのに対して、後者は鬼滅の刃タイアップの缶コーヒーを120円で売っていた。筆者は、ブームの影響を受けて割高な鬼滅缶を買ってしまったことがある。「30円」という大きい価格差があっても、他の自販機でも同様に売れていることが推察される。
競合の影響から、100円で売ってしまっていた商品に20円の“価格是正”ができれば、タイアップ費用がかかるとしても利益の押上効果は大きい。
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