民間企業が主導した、トランプ大統領「ネット追放劇」に見る“権限”とリスク:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
TwitterやFacebookがトランプ大統領のアカウントを次々と停止。民間企業が大統領の口封じをする権利があるのか、と議論になった。SNSのルール上、暴動につながる発信は許容できないようだ。ただ、サービス提供者が人々の生活や権利に及ぼす影響がますます大きくなっていることは知っておくべきだ。
デジタルサービス提供者が「権利を奪う」ことも可能に?
当のトランプは、TwitterやFacebookが彼のアカウントを削除する方針になっていることを知るやいなや、ビデオを公開し、自分が大統領選に敗れたことを認め、自らが煽った議会占拠事件を批判することになった。ただそれも時すでに遅しで、結局、トランプは大統領職を退任する前にSNSから存在を消された。
トランプは「声」を奪われることでこれまでのように活動ができなくなっている。実際、SNSを出禁になってから、すでに存在感が消えつつあり、こつ然とどこかに姿を消してしまったかのようである。
当然、トランプ自身が設置していた政治団体への「不正選挙への裁判資金」などももうこれまでのように集められなくなるだろう。ちなみにこうした団体にはすでに2億ドル以上のカネが集まっており、その多くはトランプが自分たちで使えるようにしていると分析されている。
SNSが発展したことで起きた今回の顛末は、これからさらにデジタル化が進み、ユーザーのデジタル依存度が高まればまた起きる可能性がある。
例えば民間企業が提供する決済サービスや、民間のデジタル通貨などが広く普及すれば、サービス提供者の意図によって、人々の生活に影響を及ぼし、人々の権利を奪うことすらできるようになる。これまでは政府やメディアが牛耳ってきたものを民間や個人がサービスとして行えるようになり、その範囲が広がるほど、政府に対する脅威になることも考えられるのだ。
そしてそんな事態は、世界中どこでも起こりうる。日本だって、例外ではない。いま日本では「デジタル化」「イノベーション」といったような言葉を金科玉条のごとく扱っているが、例えば国外のデジタルサービスなどに依存しすぎると、国際的なルール変更や安全保障に関わるといった理由で、いつ不都合な事態になるかもしれない。企業もそんなリスクは常に頭においていないといけない。米国の大統領ですら、一瞬で発信力を失うほどのダメージがある現実は、冷静に見ておく必要があるだろう。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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