大学運営や受験産業に影響大 日本の「難関」大学が減る理由:偏差値(4/4 ページ)
日本の「難関」大学は減っていると筆者は主張する。大学運営や受験産業にも大きな影響を与える事態だ。その理由とは?
最近生まれた子ども世代は、有名大学に入るのは「容易」になる
これまでの数字をもって、「難関」でないという見解には、異論もあるだろう。しかし、実際の世代人口に、偏差値の意味を照らし合わせると、入学試験における難易度は上記の通りになる。
難易度を維持しようと思えば、大学の定員を人口に応じて削減させるか、入学可能な生徒を増やして(英語や中国語などで入試・授業を行うなど)、入学するための「ハードルの高さ」を維持するしかない。
しかしながら、定員の削減は、大学教員や職員のリストラに直結する。人員削減を伴う構造改革をやり遂げる困難さを考えると、最近生まれた世代が受験年齢になる時期まで、定員が維持される可能性は十分あるのではないか。
同様に、大学教員や職員の外国語のレベルを考えると、世界中から大量の学生を受け入れることが果たして10年や20年で可能だろうか。
現状に対しての「良い」「悪い」の評価は読者に委ねたい。しかし、人口減少が現状のペースで進めば「日本には有名大学はあるが、難関大学がない」という未来図が描けるのは間違いない。
学習塾ビジネスは個別から、“多様化、多角化”へ
こういった流れは大学経営だけでなく、学習塾業界にも影響を与えている。
予備校や学習塾を運営する企業は、平成後半以降は個別指導を強化する傾向が定着している。受験生の親に対して、丁寧なケアをアピールする姿勢が強まっている。一方で、大学受験ではないが、公認会計士試験などの難関資格受験に強みをもつTACの多田敏男社長は、20年の決算説明会で、「集団で授業を受けて、受講生間で刺激を与え合いながら切磋琢磨する。コロナの状況でも、そういう空間が必要だ」とコメント。オンライン授業対応がコロナによって進んだ状況を説明しながらも、集団授業の必要性を強調していた。人口減少で事業環境の厳しさが増す中で、オンラインでの個別指導や、集団授業と学習指導サービスの形態は、多様化しながら存続していくのだろう。
また、千葉県や茨城県に強みを持つ進学塾の市進ホールディングスは20年7月に、介護支援事業を営む企業の株式を取得した。今後は、真面目な従業員というリソースを活用した“多角化”の形で、生き残りを図る学習塾企業も増えていくのではないか。
著者プロフィール
小島一郎
株式会社分析広報研究所 チーフアナリスト・代表取締役
年間1000社の上場企業への継続的なリサーチ活動を行っているアナリスト。独自リサーチを基盤に、企業に対して広報や企業価値向上施策に関するコンサルティングを行っている。
1997年上智大学経済学部卒。入社した山一證券で山一証券経済研究所企業調査部に配属されるも破綻を経験。日本マイクロソフトを経て、大和総研企業調査部にて証券アナリストを行う。日経金融新聞(現日経ベリタス)、エコノミスト誌の人気アナリストランキングに名を連ねた。その後、事業会社に転身、上場物流不動産会社、上場ゲーム会社、上場ネットサービス会社で広報IRや経営企画に携わる。2012年独立。リサーチアナリストや事業会社での実務経験を生かして、企業価値向上を戦略面、広報実務面でサポートする株式分析広報研究所を設立し現在に至る。企業価値向上の実績を積み上げている。
アナリスト、コンサルタントとしてビジネス媒体中心に記事執筆。全国紙、地上波等でのコメント紹介多数。リサーチの現場からもつぶやいている。
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