トヨタ、ホンダ、スバル、日産が減産 自動車用半導体がひっ迫した3つの理由:<新連載>高根英幸「クルマのミライ」(2/5 ページ)
世界中の自動車生産工場が新型コロナウイルスに翻弄されている。2020年後半に急速に業績を回復させたメーカーが多い一方で、ここへきて再び生産を調整しなければならない状況に追い込まれている。その理由となっているのが、半導体部品の不足だ。
クルマ需要、巣ごもり需要、仮想通貨需要でせめぎあい
自動車産業界での半導体需要が高まっているのは、電動化が進む現状を考えれば当然のことだ。従来のガソリン車におけるエンジンの電子制御や、オートエアコンなどの電装品、またADAS(先進運転支援システム)の各装備などに加えて、マイルドハイブリッド以上の電動化が組み込まれることは、インバーターやPCU(パワーコントロールユニット=インバーターとECUなどをまとめた装置)を搭載することを意味する。
直接大きな電流を扱えるパワー半導体を必要とするハイブリッド車やEVにとっては、今回の事態はコロナ禍も関係しているとはいえ、泣きっ面に蜂といった状況だろう。日産が長期的な減産を見込んでいるのは、まさに半導体不足の影響をモロに食らってしまったからだ。
すでに昨年後半には、半導体が供給不足になるという予測が業界アナリストから出されていた。それは5G普及に向けた需要増や、ソニーのプレイステーション5やマイクロソフトのXboxといった家庭用TVゲーム機の生産がいよいよ本格的になるため、半導体の需要が高まることが予測されていたのだ。それに加えてコロナ禍で巣ごもり需要が高まりTVゲーム機の需要はさらに高まったことも、半導体の需要を押し上げている要因の1つだ。
さらにここへ来て、もう1つ半導体需要を押し上げる要因が起こっているようだ。それは仮想通貨の高騰によるPC需要の高まりである。仮想通貨の取り引きを実現するための計算処理であるマイニング用には、CPUではなく、GPU(グラフィックスプロセッサユニット=画像処理用の補助回路用半導体)を使って演算処理させる方が効率的だということから、グラフィックスカードを買い占めるような動きもあり、一気にPC市場の半導体の供給が不足気味となっている。
さらにはコロナ禍によりテレワークの導入が世界中で加速し、PCや通信技術関連の需要も高まった。織り込み済みだった需要増に加えて、イレギュラーな需要が沸き起こり、増産しても供給不足を招いているのである。
とにかく早急に一定以上の数が欲しいマイニング業者は、価格よりも確保する方が優先されるため、価格が上昇してもお構いなしなので、半導体メーカーにとってはありがたい存在だろう。こうなってくると割を食うのが自動車業界、というわけなのである。
関連記事
- テスラに続くのは、果たしてどのEVベンチャーか?
クルマの電動化が加速している。既存メーカーのハイブリッドやEVへの転向はもちろん、テスラを始めとするEVベンチャーも多数立ち上がっている。ここでは、イーロン・マスクが採ったテスラの成長戦略を思い起こしつつ、数あるEVベンチャーの現状と今後の可能性を見ていく。 - 2021年、再び来るか半導体ブーム リモートワークと巣ごもり需要が牽引
コロナ禍は生活だけでなく産業構造にもさまざまな変化をもたらしている。その1つが、自宅でのリモートワークやゲームなどのエンターテインメントの拡大にともなう、半導体需要の盛り上がりだ。 - 日産三菱ルノーのアライアンスは崩壊するか?
公共交通より安全に移動できるクルマが見直され、自動車業界の業績がコロナ禍の悪化から回復を見せている。しかしエンジン車販売規制に伴うEVシフトも見据えれば、楽観視はできないず、アライアンスなどによる連合グループは、提携解消の可能性もある。今回は世界の主要メーカーのアライアンス状況と、課題を考える。 - 電動化の主役は完成車メーカーではなくサプライヤーだ!
菅政権による自動車の電動化規制に注目が集まっている。カーボンニュートラルによる電動化規制は世界中に広がっており、自動車業界を大きく揺るがすことになるだろう。そして、これまでの動きから見えてくるのが主役交代だ。今後は、完成車メーカーからサプライヤーへ、主役がシフトすると考えられる。 - 「技術の日産」の魂は、死んでいない アライアンスの行方は?
日産自動車経営陣の新体制が固まった。3頭体制への期待は高いが、その周囲の役員の間にはさまざまな思惑がうごめいているという情報もある。日本とフランスの国策企業というプライドが、足を引っ張りあっていくなら、良いクルマやサービスも生まれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.