SaaS企業の時価総額はなぜ高いのか?(4/5 ページ)
この数年、SaaS企業は新興企業向け株式市場マザーズのIPOにおいて大きな存在感を見せています。新興市場のけん引役ともいえるほど躍進をしたSaaS企業ですが、果たしてこの勢いは、21年以降も続いていくのでしょうか。
(2)成長性の高さ
調査会社富士キメラ総研の調査では、SaaS市場は年平均13%の成長を遂げており、24年には1.1兆円の市場規模まで伸びることが予想されています。このような業界全体の成長を受けながら、IPOに至ったSaaS企業各社も大幅な成長を遂げています。
以下の表では、代表的なSaaS企業の定常的な収益であるARR、並びにその前年同期比上成長率を並べています。
マザーズ市場全体の売上高成長率は16%であることに対し、SaaS企業の上位各社はそれを上回る高い伸びを記録しています。
国内SaaSスタートアップの成功目安は、米国株式市場でのSaaS IPOのミニマム水準である「ARR100億円」が意識されることが多いですが、その水準を超えてなお、Sansanは年率+26.1%、ラクスも前年比+35%と高い伸びを見せています。
ストック型の収益構造であることから、今後もこのような高成長が複数年続くことが織り込まれ、現在の高い時価総額の形成につながっています。
(3)海外投資家
近年で、SaaSスタートアップが株式発行による資金調達を行う際、数十億円規模の資金を海外投資家から集めるケースが見られるようになりました。IPO時では、freee、Sansan、プレイドがグローバルオファリングと呼ばれる海外投資家に対する株式の募集や売り出しを実施し、資金調達を行っています。
複数のSaaS企業 IR関係者から話を伺った中でも、SaaS企業への投資に対して理解がある海外投資家は、足元での赤字を厭わずに、より長期的な成長拡大を期待して、高い企業価値評価を想定することが見受けられるといいます。
有価証券報告書に記載の株主保有別割合を見ると、freeeが54.9%、インフォマートが52.2%など過半数を「外国法人等」が占め、海外投資家が過半以上の株式を保有している状況が伺えます。
さまざまな投資方針やスタンスがあるため必ずしも一括りにできませんが、従来のように黒字を志向する国内投資家とは異なり、積極的に成長投資を請け負うことができる海外投資家の存在が時価総額の引き上げの要因となっていると考えられます。
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