SaaS企業の時価総額はなぜ高いのか?(5/5 ページ)
この数年、SaaS企業は新興企業向け株式市場マザーズのIPOにおいて大きな存在感を見せています。新興市場のけん引役ともいえるほど躍進をしたSaaS企業ですが、果たしてこの勢いは、21年以降も続いていくのでしょうか。
2021年以降のSaaS IPOに関する展望
それでは、今後もこのようなSaaS企業が高い評価を受ける流れは続くのでしょうか。
SaaS企業へのベンチャー投資を専門に行うUB Ventures 岩澤氏に21年以降の展望を伺いました。
SaaS IPOは二極化を迎える
―― 今後のSaaS企業のIPOに関しどのような展望をお持ちでしょうか?
岩澤氏 現在SaaS企業は業界全体で高い評価を受けつつありますが、今後は今までと同様に高い企業価値評価がなされる企業と、そうではない企業に二分されていくのではないかと考えています。
SaaSの強みは高い粗利率と再現性の高いビジネスモデルにあり、米国では粗利率70%を超えることが高い評価を受けるSaaS企業の条件となっています。
日本のSaaS各社の粗利率はバラつきがあり、ARR100億円を超えるTAM(獲得可能な最大市場規模)の魅力や成長率に加え、利益構造も含めた強い事業構造を証明できる企業と、その根拠が曖昧なまま成長投資を行う企業で、評価は2極化すると思います。
――― 評価を受けるSaaS企業、評価を受けないSaaS企業はどう違いますか?
岩澤氏 ARR100億円を突破するイメージがつくかどうかが具体的なポイントだと思います。
例えば、freeeのように顧客セグメントが明確で、そこに対するソリューション精度の高さや、経理システムを基点とした周辺領域へのビジネス拡張など、ユーザーを中心とした経済圏構築のストーリーが明確な場合は評価されるでしょう。
一方で、単一事業のみによる展開や、既存のSaaS事業とシナジーが薄い領域へのM&Aなど、成長ストーリーが見いだせない場合、投資家が離れ始めると思います。
IPOよりさらに一歩踏み込むと、SaaS企業に対するM&Aもより活発化してくると考えています。
SaaSは再現性が高い事業構造であるため、事業成長に悩むSaaS企業をプライベートエクイティが再生するという事例も出てくるでしょう。その他にも、既に多くの顧客接点を持ち販売力に強みを持つSIerやIT商社といった企業が、SaaS企業を取り込むかもしれません。
競争環境も激しさを増す中、真に成長を遂げるSaaSスタートアップの誕生を私たちも期待しています。
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