ネットで賛否、電通「社員の個人事業主化」 実際に応募・退社した“中の人”の本音:リストラなのか(1/3 ページ)
ネットで賛否が渦巻いた、電通の個人事業主制度。この制度に応募し、電通を退社した江本さん(仮名)は「世の中の人々に誤解されている」と話す。江本さんの本音は……?
「世の中の人々に誤解されているので、今回の取材に応じた」と話すのは、電通の個人事業主制度に応募し、昨年12月31日に電通を退社した江本耕介(仮名)さんだ。電通の個人事業主制度というのは、退社した元社員との間で業務委託契約を締結し、最大で10年間一定の報酬を約束する制度のこと。ミドル社員を対象に約230人が応募、今年1月に運用が始まった。230人は電通と直接契約するのではなく、電通の100%出資で設立した「ニューホライズンコレクティブ合同会社」(以後、NH)と契約し報酬を受け取る仕組みだ。
この制度が公表されるや否や、ネット上には賛否が渦巻いた。その多くは「体のいいリストラではないのか」といった類の否定的な意見だった。昨年12月に公開した「『リストラという考えは1ミリもない』 電通『社員の個人事業主化』の真意、発起人を直撃」でもさまざまな意見を頂戴したが、江本氏が述べたように、この制度の本質が十分に理解されていない傾向も見受けられた。
そこで、制度に応募した当事者本人から話を聞くことで、この制度を再考する機会を得たいという思いからこの記事を書いている。仮名での取材となったのは本人の希望によるものだ。
知見、経験、人脈がピークのタイミングで独立
今回の「ライフシフトプラットフォーム」(以後、LSP)と銘打った新制度について、江本氏は「電通の社風を考えると、生まれるべくして生まれた制度」と評する。理由は次の通りだ。
電通には、現場で働き続けることを望む社員が多いという。「現場が楽しく、そこに仕事のやりがいを見いだしている人が多い」(江本氏)。しかし、昇進して管理職になると現場から離れ、部下のマネジメントや社内調整といった仕事が増えてくる。
江本氏は「マネジメントより、独立してやりがいのある仕事を続けたいと考える社員の数は、他の一般的な企業と比較して相対的に多いのではないか」と推測する。江本氏自身もまさにそのような考え方の持ち主で、「管理職を経て、定年後にシニア起業を目指すより、知見、経験、人脈がピークのタイミングで独立を模索していた」という。現在、アラウンドフィフティーの江本氏は、自分が高く売れるうちに自立の道筋を構築しておこうと考えたようだ。
そして、昨夏のLSPの募集説明会などで制度の趣旨を理解し、賛同して応募。江本氏のような独立心の強い社員にとってLSPは、まさに“渡りに船”として機能したことになる。説明会は、会社側からだけでなく、起業家や社労士など外部の人もオンラインで接続し、独立後の人生設計についての説明やアドバイスもあったそうだ。
前回の記事で、筆者は自身の経験から「電通という大組織を離れ個人事業主になると、銀行が信用してくれないのではないか」といった懸念を記した。
これに関し、江本氏は「電通社員の給与振込先に指定された銀行は、LSPの趣旨や仕組みを理解しており、割増退職金の運用や独立後の口座の開設などに関し、信用してくれないどころか、逆に『優遇させていただきます!』と、LSP応募者に対する売込みが激しかった」と反論する。具体的な金額は教えてくれなかったが、割増退職金やNHからの報酬は「一般の感覚からすると驚くような金額」という。
LSPが会社側の都合による「リストラ」ではない証として、江本氏は、制度応募時の決定フローについて次のように説明する。LSP希望者は、直属の上司に報告しないで応募するそうだ。そして経営会議で退職が承認された後に、初めて上司に連絡が回るという仕組みだ。100%個人の判断で退職が決まるので、上司による「肩たたき」といったリストラにありがちな構図は「一切ない」(江本氏)と力強く否定する。
独立後の業務の在り方は、どうなる?
今回の制度が、いわゆる「リストラ」と呼ばれる会社側の一方的な人減らし施策ではないことは理解できたが、独立後の業務の在り方は、どのようになるのだろうか。
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