ネットで賛否、電通「社員の個人事業主化」 実際に応募・退社した“中の人”の本音:リストラなのか(2/3 ページ)
ネットで賛否が渦巻いた、電通の個人事業主制度。この制度に応募し、電通を退社した江本さん(仮名)は「世の中の人々に誤解されている」と話す。江本さんの本音は……?
応募者230人の中には、電通在職中から会社以外で個人的な活動を行っている人も一定数存在するそうだ。電通は、副業は禁止だが、講演や出版、セミナー、教育機関の講師といった属人的な活動については、申請さえすれば許されるという。そのような関係で、会社以外でも幅広い人脈を有している人が多く、そこから独立後の新しい仕事を獲得する人もいるようだ。
電通からすると、LSPを構築し、NHという退職者の受け皿を設けることで退職者との関係性を断ち切ることなく継続的に維持し「アルムナイ経済圏」(「アルムナイ」は卒業生の意)を構築する意図があったと思われる。江本氏は「230人の応募者の顔ぶれを見ると、エース級の人が多く含まれる」と苦笑する。会社側がどのくらいエース級の退職者数を想定していたのかは分からないというが、退職した優秀な人材が、NHを通じ、外部で獲得した仕事を会社側にもフィードバックしてくれることへの期待が高まったのではないかというのだ。
電通は、日本最大の広告企業というだけあり、これまでは、トヨタに代表される大企業の広告業務を中心に取り扱ってきた。広告宣伝費でいうと、1社あたり年間数百億円〜数千億円の案件だ。そのため「中堅や中小企業の予算規模が小さな仕事までは、手が回らないのが実情」(江本氏)だったという。しかし、レガシーメディアの衰退により、既存のビジネスモデルが通用しなくなった広告業界だけに、電通としてこれまで手つかずだった、小規模予算の広告分野からも収益を上げる方向性を模索した結果がLSPなのではないか。
江本氏は「電通から独立した元社員が、小さな仕事を電通クオリティーで請負い、一定規模のプロジェクトに発展させることで、将来的には、電通本体も絡んでくることは十分に考えられる」と予測する。
具体的には、地方出身者が、現在の電通ではフォローしきれない、地元の企業や地元自治体の業務を獲得するようなイメージだ。これまでの方法論が通用しない時代に突入しただけに「NHを通じ業務範囲を『面』で広げていくことをもくろんでいるように思う」と江本氏は明かす。
その一方で、電通時代の業務とは全く関係のない分野で個人事業主、あるいは法人を立ち上げて生きていく人もいるそうだ。江本氏自身も、著作物があり、大学での講師も努めているということから、「会社で担当していた業務とは関係のない、情報発信を中心にした仕事を行う」という。
タニタの個人事業主制度との違いは?
今回の個人事業主制度の一報に触れた際、筆者は、へルスメーターで有名なタニタの個人事業主制度と重ね合わせた。タニタの制度は、会社で担当していた業務をそのまま個人事業主として引き継ぐ、いうなれば、雇用形態だけを移行する仕組みだ。当初、電通のLSPも同様の仕組みだと思っていたが、全体の枠組みを俯瞰するとタニタの制度とはかなりの開きがあるように感じる。
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