「出勤者7割削減」なんて無理な呼びかけは、やめたほうがいい理由:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
政府や自治体が喉を枯らして「出勤者7割削減」を呼びかけている。しかし、筆者の窪田氏は「『出勤者7割削減』の呼びかけもやめたほうがいい」と考える。なぜかというと……。
日本中に心の壊れた人を量産
テレワークというワーキングスタイルは、自分の頭で考えて、遠く離れた上司や同僚とリモートでつながりながら、自分のペースで仕事を出して「成果」を出すというドライな労働文化には非常にフィットする。だから、「ホウレンソウ信仰」のない米国や欧州ではテレワーク実施率が高いのだ。
しかし、日本では仕事とは単に個人が「成果」を出すことではない。上司や取引先などとの円滑な人間関係をまわしながら成し遂げるものだと考えられる。だから、「ホウレンソウ」を何よりも重視するし、「接待」「飲みニケーション」「飛び込み営業」のような対面コミュニケーションを重視するのだ。
こういう「対面重視文化」の中で、「テレワーク」が敬遠されるのは当然ではないか。
日本では大企業、中小企業問わず新人研修では「ホウレンソウ」が真っ先に叩き込まれる。そして、この「ホウレンソウ」を20年、30年、40年とやってきたおじさんたちが、日本の政治や経済をまわしている。そういう「大日本ホウレンソウ帝国」ともいうべき状況の中で、ホウレンソウに効果のないテレワークが呼びかけられても建前として、「おお、そうだ、これからはテレワークだ!」と同調するフリをするだろうが、裏では「あんなんじゃ仕事できねえよな」と対面で仕事をするに決まっている。
そのあたりの欺瞞(ぎまん)は、「出勤者7割削減」を呼びかける、菅総理や二階幹事長が、オレたちには当てはまらないと言わんばかりに、リアルでの面会や会食を続けていることが、雄弁に物語っている。
では、そんな老いも若きもホウレンソウが骨の髄まで叩き込まれた日本人に、コロナだからと「出勤者7割削減」を強引に押し付けたらどんな問題が起きるだろうか。
まず、これまで当たり前のホウレンソウができないので不安に押しつぶされそうになるだろう。それに耐えてテレワークを続ければ、ストレスも増えていくので、心身を壊す人が続出するはずだ。つまり、いくらコロナが怖いからといって、日本人にはそもそも難しいテレワークを強引に進めてしまうと、日本中に心の壊れた人を量産することになってしまうのだ。
以上が、筆者が「出勤者7割削減」の呼びかけをやめたほうがいいという理由だ。なぜこんな感染拡大を抑えるための国民運動にケチをつけるようなことを、あえて申し上げたのかというと、「できもしない目標」を掲げたときの日本はロクなことにならないのは、太平洋戦争や福島第一原発事故などでも証明されている、歴史の教訓だからだ。
できないことは、素直にできないとあきらめる。途上国でもワクチン接種がスタートする中でいまだにスケジュールさえ見えないなど、コロナ禍によって、日本の「実力」が残酷なまでに露呈している。そろそろこの厳しい現実を真摯(しんし)に受け止めて、身の丈に合ったコロナ対策を掲げるべきだ。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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