エイベックス・電通……大企業の自社ビル売却にまつわる2つの誤解:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
ここ最近で相次いでいた自社ビル売却の動きであるが、20年10月のJTビル売却や、NECの相模原事業場の売却等の事例からその兆候は現れてはいた。今回は大企業の自社ビル売却によくある2つの誤解を解き明かしていきたい。
都心オフィスを買い回るデベロッパーとファンド
一連の報道におけるもう1つの誤解といえば、「都心オフィスはおしまいである」という見方である。冒頭で挙げたリモートワークの推進や、パソナの淡路島移転など、「都心にオフィス」という風潮に一定の変化が生じていることも事実である。しかし、これだけをもって大企業が都心の物件に見切りをつけていると考えるのはやや早計である。
確かに、コロナ禍以降はオフィスの空室率上昇や募集賃料の下落がみられており、市況は後退の動きが出てきている。しかし、三幸エステートのデータによれば都心5区における大規模ビルの空室率は依然として17年並みの低水準であり、募集賃料の坪単価は3万円と19年頃と同水準でもある。
コロナ禍が長期化すれば、後退の動きも加速するかもしれないが、ワクチン供給も進んでおり、このまま終息すれば後退の動きも一段落するとみられる。
こうした中、自社ビルが「売れる」ということは、その値段で「買う者がいる」ということを忘れてはならない。そして、買い手に名を連ねるのは、大手不動産デベロッパーや外資系の不動産投資ファンドといった、目利きのできる海千山千のプレーヤーである。
ちなみに、先に検討したセールアンドリースバック方式は、このようなプレーヤーにとってもメリットがある。通常、デベロッパー側がイチからビル建設を行えば、入居者がつかなかったり、空室部分について家賃を回収できなかったりするリスクがあるからだ。
売り主がそのまま借り続けてくれるというのは、コロナ禍の中で保有する物件からのテナント流出をなんとしても食い止めたいデベロッパーやファンドからすると、願ってもない条件でもある。広告や営業で客付を行わずとも、ほぼ満室の状態で引き渡しを受けることができる点も魅力的だ。
最近の潮流ではさまざまな変化が事態を複雑にしてはいるものの、不動産のプロは都心のオフィスビルに期待している。今回検討したエイベックスや電通等の各社は、本社機能を都心に据え置いたうえでセールアンドリースバックによる資金調達を図ったことを考えれば、「都心オフィス」という風潮は依然として底堅い推移をみせていくのではないだろうか。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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