オール電化やタワマンを見れば分かる EV一辺倒に傾くことの愚かさとリスク:高根英幸 「クルマのミライ」(5/7 ページ)
クルマの電動化に関する議論が過熱している。しかしリアルな現実、そして近い将来の実現性について情報をキチンと分析した上で議論をすべき時だ。ここで考えるのはモーターやインバーター、バッテリーの性能の話ではない。そんなことより根本的な問題が待ち構えているのである。
さらに問題は年間の電力消費量だけでなく、ピーク時の電力供給がどれだけ必要か、ということだ。クルマの利用は、渋滞を見れば分かるようにピーク時とオフピーク時がある。1日の動きで見るだけならば、1回の充電で足りれば、深夜に自宅で充電できる人と昼間に勤務先で充電できる人に分かれることで、電力消費も分散できる。
しかしコロナ禍が収束すれば、人はまた旅行に帰省にと移動し出すことになり、それは季節や日付によるピークを発生させる。高速道路で移動するEVがサービスエリアに充電のために立ち寄る。今よりも急速充電のシステムが改善され、1台あたり15分で充電が完了できるようになるかもしれないが、それはその分充電に費やされる電力が増えることになる。1時間あたりの電力消費量がドカンと増えれば、電力の供給不安が持ち上がる。
それに充電ステーションの数も圧倒的に足りなくなる。今や充電ステーションの拠点数は2万カ所近くになり、ガソリンスタンドを抜いたという報道も見られるが、給油ポンプが1台しかないガソリンスタンドなど見たことがあるだろうか。油種の問題もあるが、大抵は複数の給油ポンプ機を備え、それぞれに2つ以上の給油ガンがある。一方、複数の急速充電器を持つ充電ステーションは500カ所あまりしかなく、残り約7000カ所の急速充電器は1機のみの設置だ。さらに残りは急速充電ではなく200Vか100Vの普通充電施設だ。
そしてエンジン車の給油は5分程度で完了する。急速充電設備を備えた充電ステーションで同じ稼働率を実現するには、今の規模の10倍でも足りない。現状は新車販売の1%程度でしかなく、保有台数で見ても30万台程度のEVとPHEVでも不足する充電ステーションの状況を、全車プラグインへと置き換えたら、単純計算では270倍は必要になる。
更なる急速充電化、日時指定の充電予約などして効率化を図ったとしても、まずは100倍の急速充電器がなければ、とても足りない。そしてそれだけの充電ステーションには供給する電力がまた必要なのである。
クルマの電動化が求められるのが30年半ばであり、それまでに発電能力を高めればいいのでは、なんて意見も聞こえてきそうだが、クルマの電動化を進めるにはまず電源を確保する算段をつけなければ意味がない。
そろそろ全貌が見えてきた勘の良い読者もおられるかと思うが、もう少しお付き合いいただきたい。なぜなら、現状の電力事情を語らずして、EV化を安易に推し進めることの愚かさを伝えることはできないからだ。
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