オール電化やタワマンを見れば分かる EV一辺倒に傾くことの愚かさとリスク:高根英幸 「クルマのミライ」(6/7 ページ)
クルマの電動化に関する議論が過熱している。しかしリアルな現実、そして近い将来の実現性について情報をキチンと分析した上で議論をすべき時だ。ここで考えるのはモーターやインバーター、バッテリーの性能の話ではない。そんなことより根本的な問題が待ち構えているのである。
新電力の惨憺(さんたん)たる現状を見て考えるべきは未来の電源構成
16年の電力自由化によって発電と送電が分離されたことで、電力を供給する企業が一気に増えた。ガス会社が電気も売り、通信会社や小売り大手などさまざまな企業が独自ブランドの電力会社を立ち上げた。
しかし実際に発電している電力の8割は、電力を従来供給してきた大手電力会社だ。残りの2割のうちおよそ半分は、工場など自前で発電設備を持つ企業から余剰電力を購入して、その権利を市場で取り引きしている。
新電力は購入してユーザーに供給しているだけで、独自の発電所を所有しているところはほとんどない。自治体などがゴミ焼却場や木質ペレットなどのバイオマス燃料による発電は手掛けているものの、極めて小規模だ。
再生可能エネルギーによる発電は1割にも満たず、ここ10年で設備容量こそおよそ4倍にまで増えているが、実際に供給している電力はそこまで増えていない。電源構成上は設備容量に準じた4倍の構成比率を示しているが、総発電量は10年をピークに減少(東日本大震災により原発の稼働が停止したため)しており、実際にはそこまで発電量は増えていないのである。
再生可能エネルギーについても、それぞれの技術や目的は素晴らしいものであるが、技術だけで電力は作り上げられるものではなく、自然相手だけに予測通りに稼働しないのが大きな課題だ。太陽光発電や風力発電が理想と現実のかい離に悩まされているのも、すべてはコレが原因で予測が成り立ちにくいからだ。
地熱発電や海流を使った潮流発電の方が安定して電力を生み出せそうだが、潮流発電はまだまだ実用化には時間がかかる。地熱発電も、環境問題や地下資源問題、既得権益(温泉など)の問題もあり、容易に増やせない。
日本は国土が限られている上に、洋上風力発電も触れ込みほどの発電力は期待できないことが判明しており、再生可能エネルギーが電源の主力になるには、相当に時間がかかる。あと30年で達成するのは、かなり難しい目標だろう。
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