オール電化やタワマンを見れば分かる EV一辺倒に傾くことの愚かさとリスク:高根英幸 「クルマのミライ」(7/7 ページ)
クルマの電動化に関する議論が過熱している。しかしリアルな現実、そして近い将来の実現性について情報をキチンと分析した上で議論をすべき時だ。ここで考えるのはモーターやインバーター、バッテリーの性能の話ではない。そんなことより根本的な問題が待ち構えているのである。
電力を販売する会社ばかりが立ち上がり、電源構成は、未だほぼ旧態依然のままというのが、日本の電力事情なのである。しかも、この冬は大雪により暖房需要が高まっただけで電力の供給不安が起こり、電力市場の価格が一気に跳ね上がった。これにより新電力系は新規契約を停止するなど、慌てふためいている。電力自由化により参入を促されたのに、大手電力会社によってはしごを外された格好だ。
ちょっと雪が多く降っただけで、節電を呼びかけるようなぜい弱な電力会社が、液体燃料に代わってクルマに電力を供給できるようになるとは思えない。EV比率向上を推進しても充電ステーションがそろわず、電力の供給もおぼつかなければ、同じような事態に成り得る。あと10年で発電容量をどれだけ高めることができるだろうか。発電所を造るのは調査から始まると考えるとかなりの年月がかかるし、今さら火力や原発を作れるムードではない。
タワーマンションに住んでいるのは、いかにも効率的でオシャレな暮らしのようだが、停電になればエレベーターは止まるし、水道も使えなくなる(くみ上げるポンプが止まる)。オール電化住宅も、メリットばかりではないことが周知されてきたのではないか。
大規模な災害だけが停電を起こすわけではない。EVの比率が高まることも停電の要因になりかねない。エネルギーの多様性が必要なことは、どう考えても明らかだ。電源構成を先に改善せずにクルマの電動化を進めることが、いかに愚かなことか、これでお分かりいただけただろうか。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行なう「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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