「就職希望です!」「研究成果を見て!」――巨大IT企業も狙われる、北朝鮮の巧妙な“攻撃”手口:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
北朝鮮のサイバー攻撃がまたニュースになっている。米国ではグーグルに対して、コンピュータ研究者を装って接触する攻撃を仕掛けた。過去には就職希望を装ってメールし、リンクをクリックさせる手口も。コロナ禍の混乱の中、日本も油断は禁物だ。
なぜ今、北朝鮮の動きが目立つのか
そもそもなぜ、今、北朝鮮ハッカーの話が次々と取り沙汰されているのだろうか。北朝鮮のサイバー攻撃は、これまでも大量に確認されているし、たくさんの被害も出ている。なぜ今なのか。
その背景には、おそらく、バイデン政権の発足がある。米国で新政権がスタートすると、利害関係国が一気にうごめき出す。日本政府がお約束のように、尖閣諸島への日米安保条約適用を重要な政権幹部にしつこく確認するのもその一つだ。
敵対国はいつもより挑発行為を加えた軍事演習を行ったりする。特に中国などはすぐに南シナ海や尖閣周辺、台湾周辺で挑発行為を行って、新政権に「あいさつ」する。それで相手の見方を見るのである。
そういう流れから、各方面から北朝鮮が不穏な動きをしていると騒ぐことで、新政権の対北朝鮮政策のハードルを上げようとする狙いが見え隠れする。北朝鮮政策を厳しくしておきたい勢力がいる、ということだろう。
さらには、こんな見方もある。冒頭の読売新聞が報じたように、韓国の情報機関である国家情報院が、北朝鮮から韓国へのサイバー攻撃が激増していると報告している。そこには国家情報院が、北朝鮮を脅威と認識させたい狙いがあるという意見もある。
というのも、北朝鮮との融和を狙う韓国の文在寅大統領は、国家情報院の存在を良く思っておらず、かねてより骨抜きにするために改革しようとしてきた。要は対立構造になっているのだが、国家情報院は北朝鮮の脅威を煽ることで、自分たちの存在価値を顕示したい。特に韓国に対して影響力が大きい米大統領が新しくなる際はチャンスである。
だからこそ、このタイミングだったのではないだろうか。
いずれにせよ、北朝鮮の脅威は本物である。コロナ禍が止まない中、日本も油断は禁物だ。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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