「寿司業界」にこそ、日本経済復活のヒントがある理由:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
新型コロナの感染拡大を受けて、「倒産」の言葉をよく耳にするようになった。寿司店も例外ではなく、小・零細店を中心に倒産件数は高水準で推移している。「まあ、仕方がないよ」と思われた人も多いかもしれないが、筆者の窪田氏は前向きに受け止めているという。どういうことかというと……。
経営者を救うか、労働者を救うか
また、世界への発信力が上がった。
スシローは2020年5月時点で、韓国12店舗、台湾16店舗、シンガポール3店舗、そして香港に4店舗を展開している。くら寿司も海外展開を加速させており、米国、台湾に続いて中国にも進出するという。このように大手チェーンが海外市場に進出すればするほど、日本の「sushi」のPRになることは言うまでもない。
中国や韓国の企業が展開する「sushi」よりも、日本の寿司文化を正しく知れば、いつか海外渡航が解禁された時の訪日客にもつながる。この恩恵は大手チェーンだけではない。訪日した際には、「回転寿司じゃない寿司も食べてみたい」と「町のお寿司屋さん」にも足が向くかもしれないからだ。
このような「寿司業界」の20年の変遷を振り返ると、「小規模・中小企業の減少」は悪いことで、彼らの倒産はとにかく避けなくてはいけない、という日本の経済政策に疑問を抱かざるをえない。
競争力のない事業者などさっさと潰れてしまえばいい、といういわゆる「ゾンビ企業淘汰論」を主張したいわけではない。ただ、個人経営者が十数年間で4割も減少した寿司業界で、市場規模の拡大が起きて雇用が増加して、賃上げの動きが進んでいるのも紛れもない事実だ。また、その結果として、労働者だけではなく、われわれ消費者ひいては社会全体のメリットにもつながっているのも否定できない。
大手回転寿司チェーンは、豊富な資金力でサイドメニューの開発や非接触システムなど次々と新たな取り組みを進めている。厳しい競争を生き残っている「回らない寿司」のチェーンや個人経営店も、回転寿司にはないネタの鮮度や職人技に磨きをかけ、さらに質のいい寿司を消費者に提供している。
ちなみに、「町の小さなお寿司屋さん」が激減して、回転寿司が増えていくことに「あんなまずいものは本物の寿司じゃない」とかなんとか文句を言う人も多いが、そもそも寿司というのは、職人の顔色をうかがって緊張しながら食べるような高級料理ではなく、庶民が手軽に食べられるファストフードだった。そういう意味では、回転寿司は「寿司の原点」と言えなくもない。
「小規模・中小企業の減少」は、経営者の視点に立つと「日本衰退の兆候」だが、労働者や市場全体、そして消費者にとっては悪いことだけではない。むしろ、プラスも多いのだ。
日本が避けられない「小規模・中小企業の減少」という問題は突き詰めていくと、「経営者を救うか、労働者を救うか」という問題に集約される。コロナ禍の今だからこそ、寿司業界をヒントに日本の進べき道を考えてみたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
関連記事
- なぜ「すしざんまい」は、マグロの初競りを自粛したのか
マグロの初競りで一昨年は3億3360万円――。驚くような落札額で世間をにぎわせてきた「すしざんまい」(運営:喜代村)が、今年のマグロ初競りを自粛した。なぜ自粛したのかというと……。 - 「男女混合フロア」のあるカプセルホテルが、稼働率90%の理由
渋谷駅から徒歩5分ほどのところに、ちょっと変わったカプセルホテルが誕生した。その名は「The Millennials Shibuya」。カプセルホテルといえば安全性などを理由に、男女別フロアを設けるところが多いが、ここは違う。あえて「男女混合フロア」を取り入れているのだ。その狙いは……。 - “売れない魚”の寿司が、なぜ20年も売れ続けているのか
魚のサイズが小さかったり、見た目が悪かったり――。さまざまな理由で市場に出荷されない「未利用魚」を積極的に仕入れ、宅配寿司のネタにしているところがある。しかも、20年も売れ続けていて……。 - なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。 - 時短せず「ノーマスク」で接客する店も 「ナメんじゃねーよ!!」と怒る“反逆飲食店”の言い分
緊急事態宣言を受け、時短や休業要請がされている。しかし、通常営業を続ける“反逆飲食店”も存在する。支援金などの制度を実情に沿った形に改善すべきだと筆者は主張する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.