「寿司業界」にこそ、日本経済復活のヒントがある理由:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
新型コロナの感染拡大を受けて、「倒産」の言葉をよく耳にするようになった。寿司店も例外ではなく、小・零細店を中心に倒産件数は高水準で推移している。「まあ、仕方がないよ」と思われた人も多いかもしれないが、筆者の窪田氏は前向きに受け止めているという。どういうことかというと……。
現実はまったく「逆」
そんな「小規模・中小企業の減少」に歯止めがかからないこの状況で、寿司業界はどうなったのか。日本商工会議所の主張では、失業者が溢れかえって、地方経済にも悪影響を及ぼしているはずだが、現実はまったく「逆」である。
まず、失業者が増えるどころか、小規模・中小企業が減る前よりも多くの雇用を生み出した。
「平成16年事業所・企業統計調査」によれば、「町の小さな寿司屋」が全国4万に届く勢いで乱立していた01年、寿司業界で働いていた従業者数は23万4069人だ。そこから「町のお寿司屋さん」の大淘汰が始まって4割減少した14年の従業者数は、25万822人だ。要するに、寿司店の経営者が約1万5000人減った代わりに、1万5000人の新たな雇用が増えているのだ。
では、なぜこんな現象が起きるのかというと、事業者の規模が大きくなったことによって、寿司市場全体が大きく成長したからだ。日本フードサービス協会によれば、寿司市場全体は右肩あがりで成長しており、18年の市場規模は1兆5497億円と、過去最高を記録した。
大手チェーン4強時代が到来して、「地場の回転寿司チェーン」や「町のお寿司屋さん」がなぎ倒されることで、確かに一時的に失業をする人がいたことも事実だ。が、その代わりに大手チェーンが牽引して、寿司業界全体を活況させたことで、新たな雇用も生み出しているのだ。
そこに加えて、賃金や待遇が向上した。
飲食業界の賃金が低いのは個人経営のお店が多いからであることに、異論はないだろう。「町のお寿司屋さん」を支える職人の世界は厳しい徒弟制度なので、「修行」にはほとんど賃金が払われない。技術を習得するため、残業や時間外労働は当たり前。寿司業界を目指すことは、ブラック労働を受け入れることと同義だった。
しかし、時代は変わった。スシローがWebサイトで「高待遇の証明」として、「平均年収605万円」を掲げ、くら寿司が年収1000万円で新卒を募集をしたように、大手が増えたことで、寿司業界としても賃上げに取り組むべき機運が高まっているのだ。
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