旅行業界注目の「マニアックSIT」、鉄道サークル企画の豪華客車貸切ツアーから考える:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
鉄道旅倶楽部が企画した豪華客車「サロンカーなにわ」の貸切ツアーが大成功に終わった。国鉄時代に大阪地区で製造された「サロンカーなにわ」は、お召し列車の実績もあり、乗っておきたいファン憧れの車両だ。「SIT」とは特別な目的に絞った旅を指し、低迷する旅行業界のなかでも堅調で注目されている
思い通りのツアーがないなら、作ろう
今回「サロンカーなにわ」の貸し切り列車を企画した「鉄道旅倶楽部」は17年5月に設立され、貸し切り列車旅を年に3回ほど企画している。今回の「サロンカーなにわ貸切」はちょうど10回目となるが、実は19年から構想されていたものの、COVID-19の影響で中止され、仕切り直しての実施となる。
代表の井上佑樹さんが鉄道旅倶楽部を始めたきっかけは、大学の鉄道研究会が開催した貸し切り列車ツアーに参加した数年前にさかのぼる。ここで、同じ趣味を持つ仲間とワイワイする楽しさを知った井上さんは、イベント列車が減る中、その後も臨時列車や旅行社主催の団体列車に乗車。趣味の貸し切り列車旅を広めたいという思いと同時に、自身も鉄道ファンによる鉄道ファンのための貸し切り列車に乗りたいと思ったという。
しかし、旅行会社のツアーに思い通りの旅はない。ならば作ってしまえばいいと、「鉄道旅倶楽部」は第1回目の旅として「ひたちなか海浜鉄道キハ205の旅」を企画した。第2回目の「しなの鉄道115系」は井上さんにとって特に印象的だった。115系は彼が子どもの頃に両毛線で乗っていた懐かしい車両だ。しかもこの旅では、しなの鉄道の厚意で坂城駅に停車時間を設定し、駅前に保存している169系電車の車内を特別公開いただき、さらにお手製のヘッドマークも付けていただいたそうだ。
現在も「鉄道旅倶楽部」は、無料会員の申し込み受付Webサイトと、広報用のメールアカウント、Twitterアカウントがあるだけだ。当初は、仲間うちでの旅だったが、同好の士が集まり、メンバーが増えていった。会員数は300名を超える。サロンカーなにわの旅が注目され倍増した結果だ。もちろん旅の募集となると、不特定多数相手となるため、旅行会社を通す必要がある。
企画立案から実施までの期間は長い。JRは半年前に団体列車の運行会議を行うため、それまでに車両とルートを確定する必要がある。その2カ月前から旅行会社に相談し、工程を作る。実は今回の企画では、第1、2の希望案は断られてしまったそうで、ガッカリしたり、新しいアイデアを盛り込んだりと、一番苦労する部分かもしれない。
日本旅行の山中さんによると、今回の旅については「山陽本線で客車列車を運行する場合は、機関車の前後入れ替え作業ができる駅が限られている」という事情が大きいそうだ。作業可能な駅まで運行できれば良いが、旅程が長くなれば運賃も高くなる。また客車の営業区間と回送区間のバランスが悪いと、JR西日本には損益に関わり、利益が薄ければ断られてしまう。
こうして運行計画が決まり、旅行会社に託して募集が始まれば「鉄道旅倶楽部」としては一段落だ。ここからはヘッドマークや記念品の製作などを行う。今回の旅もクリアファイルやマフラータオルなどの乗車記念品が配られ、好評のようだった。
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