旅行業界注目の「マニアックSIT」、鉄道サークル企画の豪華客車貸切ツアーから考える:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
鉄道旅倶楽部が企画した豪華客車「サロンカーなにわ」の貸切ツアーが大成功に終わった。国鉄時代に大阪地区で製造された「サロンカーなにわ」は、お召し列車の実績もあり、乗っておきたいファン憧れの車両だ。「SIT」とは特別な目的に絞った旅を指し、低迷する旅行業界のなかでも堅調で注目されている
社会人団体にはできない、旅行会社の役割
JRは、一般客に対しても8人以上なら団体割引乗車券を販売する。旅客営業規則では団体・貸切は旅行会社や法人によらず、誰でも車両や列車の貸切を可能としているため、今回のツアーのように単純な往復行程なら、鉄道旅倶楽部だけで実施できそうだ。しかし、旅行業法に定められているとおり、不特定多数を対象に参加者を募集できるのは、旅行業として登録のある団体だけである。飲食物の仕入れ、配布する記念グッズの制作費といった事務局の経費を、旅行代金に上乗せする行為も旅行業違反となる。
今回のツアーを担当した日本旅行 大阪法人統括部の山中章雄さんは、以下のように教えてくれた。
「今回の鉄道旅倶楽部など、会員制でクローズドな組織の場合は、旅行業法の規制の適用外と考えている方も多いのですが、旅行業として登録のない団体が参加費を収受できるのは日常的につながりがある組織内のみに限られています。会員向けの募集は、不特定多数の募集と見なされるため、登録が必要なのです」
旅行業法は「不特定多数を対象とする募集型旅行の実施には、旅行業の登録が必要」と定めている。理由としては、多くの人々から代金を集めるための信用確保、公正な取引、不履行時の返金保証、安全な旅行実施が、旅行業に求められるからだ。さらに法律があることは、旅行者の利便性向上にも寄与している。
逆に特定多数というのは、家族や同一職場、同一学校など、参加者が相互に直接のつながりがある場合を指すのだ。登録の有無と募集の特定・不特定多数については、不理解が多く、その結果として現在も違反状態のまま行事を実施している事例も少なくないという。
過去には、ローカル鉄道が観光列車を企画し、旅行業の登録がないまま食事付き列車ツアーを募集し、同法違反となった事例もある。会社の定款に旅行業とあっても、旅行業の登録は別途必要なため、現在の観光列車は、鉄道会社なら自社で旅行業の登録を行うか、旅行会社が募集するものということになる。
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