不祥事・炎上はなぜ絶えない? スタートアップ企業のトラブル事案から考える、危機管理広報の在り方:働き方の「今」を知る(1/4 ページ)
企業の不祥事や炎上は、後を絶たない。最近でも、スタートアップ企業で薬機法や景表法に関するトラブルが起こった。どうすれば、こうしたトラブルをなくせるのか。今の時代に、あるべき危機管理の姿を探る。
2021年2月下旬、スタートアップ企業におけるコンプライアンスやガバナンス体制の在り方と、危機管理広報の重要性について深く考えさせられる出来事が頻発した。
一つは、美容や健康にまつわるサプリメントを販売する複数のスタートアップ企業の宣伝にまつわるトラブルだ。彼らが扱うサプリメントは法律上「健康食品」に分類されるため、医薬品とは異なり、広告やPRにおいて効果や効能をうたうことができない決まりになっている。しかし、販売サイトには「免疫力」「内側から身体を温める」「若返りを感じた」――といった形で、あたかも効果効能があるかのような表現が使われていた。さらには「肌トラブルを分析して提供」「継続的に飲む」という具合に、医薬品と誤認させるかのような販売方法もとられており、いずれも薬機法(いわゆる医薬品医療機器等法)や景表法(景品表示法)に違反する可能性が高いと指摘されている。
もう一つは、著名な経営者や投資家らが参画して設立されたスタートアップ支援、及びファンド運営に携わる企業グループで起きた騒動だ。関係者はいずれも個人として大きなネームバリューを持った有力者ばかりでありながら、経営者周辺の不透明な資金の流れやパワハラ疑惑が浮上し、参画していた多くの経営陣がグループから退任。設立からわずか9カ月で崩壊状態となってしまったというものだ。現在も経営者と退任経営陣との間で意見が対立しているが、根本にはコーポレートガバナンスの在り方を巡る価値観の相違があったものとみられている。
もしかしたら、現在ほどネットが発達しておらず、世間一般のコンプライアンスにまつわる意識も高くない時代であれば、これらの事象は世に出ることも、人の話題にのぼることさえなかったかもしれない。しかし今や企業の行動は多くの目にさらされている。彼らの問題行動や不祥事はまたたく間に多数の人が知るところとなり、初動対応や危機管理広報のまずさによって不手際がさらに広く拡散し、批判が広がる結果となってしまった(薬機法違反疑惑に関しては、話題になったのが健康被害等が発生する前で良かったかもしれないが……)。
昨今特に、このような組織の不祥事が数多く報道され、モラル意識の低い企業の悪行が目立つように感じられる。しかしこれは、「以前よりも違法行為をする人や会社が増えたから」わけではない。むしろ、日本経済や社会の構造が「公正であること」をより重視するように変化しており、その変化に対応できない旧来型価値観の組織が、市場からの退場を突きつけられているのだ。実際、刑法犯の認知件数は右肩下がりで推移している。
今般のスタートアップ各社における、危機管理広報の問題点
これまで、ベンチャーやスタートアップ企業の強みは圧倒的なスピードであり、ガバナンスやコンプライアンスという概念は意思決定を遅らせ、彼らの強みを打ち消すものかのような捉えられ方が主であった。しかし昨今の動きを見る限り、従前の認識を改める必要がありそうだ。ガバナンスやコンプライアンスをないがしろにすると、いずれどこかのタイミングでほころびが露呈し、致命的なインパクトを与えるリスクがある。逆にスタートアップ段階からコンプライアンス体制を整えることは、十分なメリットを見込める「攻めの経営戦略」でもあるともいえるだろう。
迅速対応と真摯な情報開示姿勢は危機管理広報の基本ともいえる要素だが、今般話題となったスタートアップ各社においては、それら基本姿勢が見られなかったどころか、火に油を注ぐような不誠実な対応をしてしまったところが共通している。
- 製品やPRマーケティング手法、内部不祥事などについて局所的に疑義が呈されていたが、批判が広がるまで公式な説明がなされなかった
- 疑義や批判を受けて謝罪表明する際、自社Webサイト上ではなく、外部のテキスト作成ツールやPDF資料によって行った
- 謝罪文においても、自社の違法性が疑われる行為について明確に言及せず、「不適切な表現」といった記述にとどまっていた
- SNSなどで過去公開済の広告PR投稿について、批判が拡大する前に何の説明もなく削除対応をとった
- 各社の正式な広報窓口からの公式発表がなされる前に、経営者や関係者、従業員などがそれぞれ勝手に私見をコメントとして公開していた
各社における上記の対応は、混乱の渦中では致し方なかったのかもしれないが、結果として「ネガティブな情報をあえて検索しにくくして、隠蔽工作しようとしているのでは?」「批判が自然に収まるのを待って、フェイドアウトを狙っているのでは?」「社内が混乱していて統制がとれていない。実は未熟な組織なのでは?」といった形で、むしろ疑念を大きくさせることとなり、然るべくして批判に至ったものと考えられる。
このような危機時における広報活動は、普段の前向きな広報とは異なる面が多々ある上、人は短期的にメリットのありそうな選択をしてしまうものだ。しかし、不用意な対応によってかえって批判が高まり、そちらに対応のリソースを割かれてしまい、本来の問題解決に悪影響を及ぼしてしまってはどうしようもない。そんなとき、広報担当者が冷静に判断して経営者に具申できればよいのだが、なかなか難しいこともあろう。
では経営陣や管理職は、危機時に適切な対応をするために、またそもそも危機的状況に陥らないようにするために、日々どのような心構えをもって行動していけばよいのだろうか。
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