「自転車界のインテル」を生んだ日本で、なぜ配達員に“批判の声”が出ているのか:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
自転車の部品を開発している「シマノ」が、海外で称賛されていることをご存じだろうか。世界のスポーツ自転車向け部品のシェアは85%で、その高い技術力から「自転車界のインテル」と呼ばれている。そんな企業を生んだ国で、「自転車ヘイト」が起きている。なぜかというと……。
欧米よりも自転車を頻繁に使う文化
20年9月の国土交通省「自転車の活用推進に向けた有識者会議」の資料によれば、日本の自転車保有台数は約6761万台で、先進国の中ではアメリカ、ドイツに次ぐ巨大市場となっている。人口あたりの保有台数は0.54台でオランダ(1.25台)、フィンランド(0.66台)よりも少ないが、交通手段分担率はオランダ、デンマークに次いで13%と高く、「自転車先進国の欧米諸国と比較しても高い水準」となっている。
つまり、日本は世界有数の巨大な自転車市場を有するとともに、「欧米諸国よりも自転車を頻繁に使う文化」があるのだ。この2つの要素がシマノを「自転車界のインテル」へと成長させたのだ。
このように自国内に巨大なマーケットがあることは、「技術革新」という点では非常に強い追い風になることは言うまでもない。いきなり海外で勝負をするのではなく、自国で技術やサービスを磨いて、世界的企業になるような力を蓄えることができるからだ。
このあたりの構造は、かつての日本の自動車や家電メーカー、そして現在ではGAFAやBATが分かりやすい。GAFAやBATが強いのは、アメリカや中国のIT技術が他国よりも優れているという単純な話だけではなく、海外進出をする前に、3億人や10億人という自国内の超巨大市場のなかで、競争を勝ち抜いて力をつけている側面もあるのだ。
このような市場環境に加えて、シマノの技術を研ぎ澄ませたのは「欧米よりも自転車を頻繁に使う文化」である。ヘビーユーザーが多いことは自転車部品の需要が増えるだけではなく当然、品質への要求も高くなっていく。クレームやリクエストも多くなる。つまり、「自転車界のインテル」の技術力は、日本の成熟した自転車文化によって育まれたと言っても過言ではないのだ。
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