AV機器メーカーが電気圧力鍋を開発、大ヒットの秘密は「なんでもできる」の廃止:家電メーカー進化論(5/7 ページ)
テレビメーカーであるピクセラの子会社・A-Stageが、ライフスタイルブランド「Re・De(リデ)」を立ち上げ初の製品となる電気圧力鍋を発売。2年間の販売目標を8カ月で達成する大ヒットとなった。ピクセラはなぜ、畑違いの調理家電をヒットさせられたのか。A-Stage社長とピクセラ副社長を兼任する藤岡毅氏に聞いた。
「なんでもできる」は、家電のメリットにあらず
――とはいえ、他社メーカ−の電気圧力鍋も、ほとんどが炊飯コースを搭載しています。
他社の競合製品は、炊飯機能が「100個ある多種多様なレシピのうちの1つ」である場合が多いのです。そうなると、炊飯が多数のレシピに埋もれてしまい、自分の持っている鍋で「炊飯できる」ことさえ分かっていない可能性も出てきます。そもそもレシピが100個もあったら、何を作っていいか分からない人もいるのではないでしょうか。電気圧力鍋の「何でもできる」というメリットは、「何をしていいか分からない」というデメリットにもなり得ると考えたのです。
そこでRe・De Potは、ブランドコンセプトをもとに、F1〜F2層で幼い子供がいる共働きの主婦をメインターゲットにしました。最も家事負担の多い家事負担の一助となればとの思いがその理由です。そして、そのターゲットメリットとして、高圧力によって自信のある「炊飯」をメイン訴求とすることに決め、調理機能説明のトップで「浸水込みで25分」の炊飯機能を謳(うた)いました。
一般的な日本人が毎日圧力鍋で煮物を作るかは疑問ですが、ご飯は毎日炊く家庭も多い。圧力鍋は一度しまい込むと使わなくなる家庭もありますが、炊飯をメイン機能に据えることで毎日使ってもらえる可能性を高めてもいます。
炊飯機能をメイン訴求にしたのには、もちろんRe・De Potで炊いたご飯が美味しいという大前提があります。実は、完成したRe・De Potを事前に有名店の白物家電担当バイヤーにお見せしたところ、「デザインが良い」という声とともに製品を貸してほしいと言われたのです。
お貸し出しした製品で何があったかというと、10万円近い高級炊飯器で炊いたご飯とともにブラインドテストを実施してくださり、その結果テスターの半分がRe・De Potを美味しいとしてくれたとのことでした。高級インテリアショップの家電担当バイヤーに営業した際も、ブラインドテストで高級炊飯器に負けない高い評価をいただき、「これはいけるな!」と当社の皆が自信を持ちました。しかもRe・De Potは、価格もかなり手頃(直販価格で税込み1万4800円、21年3月現在)です。
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