「鉄道を盛り上げるボランティア」の報酬は何か 網走に学ぶ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/7 ページ)
JR北海道は、SL列車「SL冬の湿原号」を釧路側、「流氷物語号」を網走側と、2つの観光列車を東部で冬に運行している。しかし新型コロナの影響で「あばしりオホーツク流氷まつり」が中止。運行中止の恐れもあった「流氷物語号」の運行を後押ししたのはボランティア団体だった。その活動から、ボランティアの報酬について考える。
JR北海道は既存の一般形車両に装飾ラッピングをするのみ。観光ガイド放送、車内販売など実働部隊はMOTレール倶楽部が「網走市観光ボランティア」として乗務する。JR北海道は基本的に任意団体とは関係を持たない。だから網走市が間に立った。言わば後見人だ。乗車記念品の販売もJR北海道の許諾を受けて、ライセンス契約を結んでいる。
「鉄道マニア視点で相手ができないことを押し通すと関係が崩れてしまう。そこは注意して、毎年小さくても実績を重ねようと意識しています」(石黒氏)
JRや行政の担当者が要望の実現へ向けて、社内調整してくれるようになってきた。例えば『オホーツクに消ゆ』のコラボでは、JR北海道が特製のヘッドマークや行先表示版の掲示を認めた。MOTレール倶楽部がゲームの権利関係者の許諾を得たことで、本気度を理解してくれたからだ。
今年から車両が観光タイプの「道北 流氷の恵み」「道東 森の恵み」になった。クロスシートでテーブル付きの座席だ。飲食やグループ旅の語り合いにふさわしい室内になっている。これはコラボ決定以前からJR北海道が決めていた。沿線自治体の貢献に対するJR北海道の謝意といえるだろう。
「MOTレール倶楽部は、会費を集めたり、寄付を求めたりしておらず、事務所もありません。だから事務所の維持費はいらないし、車両保存活動には関わらない方針なので、組織のランニングコストがゼロです。みんな手弁当です。組織の財産がなければ税制優遇を受ける必要性もないので法人化はしていません。網走市が後ろ盾になってくれるので、相手から法人格を求められることもありませんでした」(石黒氏)
今回のコラボではライセンス元との契約で法人格が必要だった。それは石黒氏が経営する会社が取り次いでいる。
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