「鉄道を盛り上げるボランティア」の報酬は何か 網走に学ぶ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/7 ページ)
JR北海道は、SL列車「SL冬の湿原号」を釧路側、「流氷物語号」を網走側と、2つの観光列車を東部で冬に運行している。しかし新型コロナの影響で「あばしりオホーツク流氷まつり」が中止。運行中止の恐れもあった「流氷物語号」の運行を後押ししたのはボランティア団体だった。その活動から、ボランティアの報酬について考える。
10年間で培った信頼関係
2010年4月29日、網走市郊外の網走湖畔に「鉄ちゃんと鉄子の宿」が開業した。旧国鉄の保養所だった施設で、近隣の温泉旅館「もとよし」の別館として使われていた施設だ。石北本線の線路沿いという立地で、鉄道ファンが楽しめるように、鉄道部品の展示室や鉄道模型レイアウトを用意した。国鉄の施設だから駅に泊まるような気分にもなりそうだ。
この開業日に集まった人々が「自分たちで何か面白いことをやろう」と意気投合した。主要メンバーは、北海道新聞社網走支局の記者(当時)で鉄道会社勤務経験もある近藤憲治氏、小学校教諭(当時)で組織運営に詳しい橋本雄一郎氏、国土交通省北海道開発局の賀川智章氏、写真家の石黒明氏だ。近藤氏が取材などを通じて呼びかけたという。
このメンバーを軸として、6月に仲間を呼びかけて焼肉パーティーを開催した。この時に集まった17人が発足時の会員だ。MOTレール倶楽部の名は橋本氏が提案した。MOTは「もとよし温泉友の会」の略だ。鉄道好きが本吉温泉に集まって親睦を深める会だった。その後、網走市を中心に、本格的な地域おこしと鉄道応援活動に活動の軸を移した。それでも結成の場所を記念してMOTの文字を冠している。
結成した年には、オホーツクの鉄道をテーマとした写真展を開催したほか、貸切列車「オホーツク食い倒れ号」の企画・運行などで実行力を発揮した。その勢いでSL列車を走らせようと企画し、JR北海道に働きかけた。なんとこれは翌年に「SLオホーツク号」として実現した。MOTレール倶楽部はJR北海道の尽力に感謝し運行を応援するため「網走鉄道夜祭」「オホーツクSLフェスタ」を開催する。以降、写真展とSL列車運行の応援、食い倒れ号の企画などで実績を重ねていく。流氷ノロッコ号でも観光ガイド放送などで協力しJR北海道と連携していった。
「初めは何かを提案しても、JRや行政から“できない”と言われてしまう。しかし、丁寧に交渉して、少しでもできることを互いに探り合って実践する。その行動が想像を上回る成果を上げることで、少しずつJRや行政からの信頼を積み重ねてきた。そんな10年でした」と、現会長の石黒明氏は語る。
90年から走り続けた流氷ノロッコ号は、17年の運行が最後になった。理由は乗客減ではなく「車両の老朽化」だった。JR北海道は経営再建中であり代替車両を用意できない。しかし、網走市など沿線自治体が「乗客へのおもてなしなどは地域が協力するから」と観光列車を要望した。その結果として、JR北海道と沿線自治体の協業事業として「流氷物語号」が走り始めた。
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