バッテリーEV以外の選択肢:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)
バッテリーEV(BEV)やプラグインハイブリッド(PHV)などの「リチャージ系」は、自宅に充電設備がないともの凄く使いにくい。だから内燃機関はしぶとく残るし、ハイブリッド(HV)も然りだ。ただし、カーボンニュートラルにも目を配る必要はある。だから、それらを補う別のエネルギーを開発しようという機運はずっと前から盛り上がっている。
合成燃料の未来
水素以外の補完系エネルギーといえば合成燃料である。合成燃料には大きくわけて2つある。バイオ系と化学系だ。バイオ系は一時期トウモロコシから作ることで話題になった。これらの人間の食物と競合するバイオ燃料を第一世代という。途上国で食糧危機が起きて子どもたちが餓死していく中で、先進国が金にものをいわせて、食料を燃料化するのは怪しからんと問題になった。
そこで第2世代では、人間の食物と被らない原材料を使うことになった。日本の場合、主力は藻類である。藻類を遺伝子技術を用いて改良し、燃料として質の良い炭素連鎖構造を持つ油を製造することに成功したのは日本のユーグレナ社だ。ユーグレナでは、バイオジェット・ディーゼル燃料の生産の実証実験プラントを稼働させていたが、ついに2020年1月30日にバイオジェット燃料の製造技術の国際規格である「ASTM D7566規格」を取得した。
重量当たりエネルギーが極めて重要な航空機において、少なくとも現状ではバッテリーは相性的に難しい。もちろんバイオ燃料も現時点では高コストという問題をはらんでいるが、そこが改善されれば、一方で、既存のエンジンをそのまま使える。つまり機体も含めた機材が、そのまま、あるいは小改修程度で使うことができる。
ということで、藻を使ったバイオ燃料は航空業界のカーボンニュートラルへの大きな一歩となる可能性がある。当然それは航空機のみならず、内燃機関全般に使える。世界の先進国にとっては、産業構造を大転換しなくても既存のエンジン技術を生かしてカーボンニュートラル化への道が開けるという都合の良い技術なのである。
さて、さてもうひとつ挙げた化学系には、アンモニア系と水素系の2つがある。どちらも常温で保存、輸送が可能な液体燃料で、高圧水素よりハンドリングが容易だ。ただし、アンモニアには毒性があるので一般市販用の燃料としては向かないが、例えば火力発電所の置き換え燃料としては、有用な手段である。経産省のカーボンニュートラル計画では、石炭・石油系火力発電所のアンモニア燃料への置き換え計画は重要な柱の一つとなっている。
水素系は、最近よく耳にする「e-fuel」のことを指している。大気中に存在する二酸化炭素を水素に化合させて液体化したもので、もちろんこの二酸化炭素は燃焼時に放出されるのだが、そもそも製造時に大気から取り入れたもので、差し引きはゼロである。
現在世界中の伝統的自動車メーカーのほとんどが、バイオ系または化学系の合成燃料の開発に取り組んでおり、これらは後々、モビリティの中で一定の割合を占める可能性が高いと思われる。なぜならば、コストの問題さえ解決すれば、旧来の石油系の供給インフラと整合性が高く、給油毎の航続距離も石油系燃料に近いからだ。ユーザーにとっては日常の利便性においてデメリットがほぼ発生しない。
関連記事
- MIRAI 可能な限り素晴らしい
すでに富士スピードウェイのショートコースで試乗を試しているトヨタの新型MIRAIを借り出して、2日間のテストドライブに出かけた。 - ガソリン車禁止の真実(考察編)
「ファクト編」では、政府発表では、そもそも官邸や省庁は一度も「ガソリン車禁止」とは言っていないことを検証した。公的な発表が何もない。にも関わらず、あたかも30年にガソリン車が禁止になるかのような話が、あれだけ世間を賑わしたのはなぜか? それは経産省と環境省の一部が、意図的な観測気球を飛ばし、不勉強なメディアとEVを崇拝するEVファンが、世界の潮流だなんだと都合の良いように言説を振りまいたからだ。 - 船からトラックまで 水素ラッシュを進めるトヨタ
トヨタの水素戦略の中で、全ての中心にあるのは、MIRAIに搭載される燃料電池スタックだ。MIRAIはいわずと知れた燃料電池車(FCV)で、水素と酸素を反応させて発電するFCスタックを備えている。クルマ以外の燃料電池需要に対して、MIRAIのFCスタックの持つポテンシャルは大きい。 - 水素に未来はあるのか?
「内燃機関が完全に滅んで、100%全てのクルマがEVになる」という世界は、未来永劫来ないだろう。そのエネルギーミックスの中にまさに水素もあるわけだが、FCVにはいろいろと欠点がある。しかし脱化石燃料を目標として、ポスト内燃機関を考え、その候補のひとつがFCVであるとするならば、化石燃料の使用を減らすために「化石燃料由来の水素」に代替することには意味がない。だから水素の製造方法は変わらなくてはならない。また、700気圧という取り扱いが危険な貯蔵方法も変化が必要だ。 - EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.