半導体チップ不足が“対岸の火事”とは言えない理由 自動車業界以外にも波及:本田雅一の時事想々(2/3 ページ)
なぜ、自動車業界で半導体チップが不足しているのか。そして、より身近なデジタルガジェットなどにも影響が広がり、最終的には世界経済の行方も左右する恐れがあり得るのか。その外郭を追いかけたい。
米テキサス州には多くの半導体工場があるが、ここにはサムスン、NXP、インフィニオンといった自動車向け半導体チップの生産拠点がある。ところがテキサスを記録的な寒波が襲い、電力供給が止まり、工場の操業が2月下旬に停止してしまった。
一度止まってしまった操業を再開し、本来の歩留まりまで上げるには時間がかかる。もともと半導体チップが不足していたところに操業停止が重なり、自動車メーカーの半導体危機に拍車が掛かったわけだが、実際には別の側面もある。半導体メーカーにとって自動車業界は、必ずしも上客ではないということだ。
自動運転技術技術は言うに及ばず、自動車におけるコンピューティング(=半導体チップ)の重要度は高まってきている上、今後はさらにその重要度が増していく。しかし、半導体の重要度の高さはスマートフォンやパソコンの方がはるかに高い。ゆえにそれらのメーカーは半導体メーカーと密に、長期的な関係を結んできている。
実際の半導体市場でも、情報機器向けが市場の半分以上を占めており、車載向け半導体市場は全体から見ると小さい。今後もしばらくは、自動車メーカーにとって半導体チップの調達リスクは高い状態が続くだろう。あるいは自動車向け半導体チップの調達価格は上がっていく。
対岸の火事とは言えない
もっとも、他業界にとっても自動車業界の状況は対岸の火事とばかりとは言えない。自動車に限らず、半導体チップの性能によって付加価値が大きく左右される製品は多い。
加えて5Gの普及が本格化する中で、ネットワークサービスの需要も高まっていくことを考えれば、エンドユーザー向け製品だけではなく、データセンターや通信サービス向けの半導体需要も増加していくことは明白だ。そうなると高性能なシステムチップ、あるいは高機能・高集積のメモリチップをどう確保するかは、簡単には解決できない問題になっていく可能性がある。
生産キャパシティーが限られ、突出した技術力を持つ企業は1社──という中でニーズが増えているのだから、これを事業的なリスクとして意識しないわけにはいかない。
この問題が複雑なのは、金を積んで早急に生産委託の優先順位を上げたり、あるいは需要逼迫に対して生産拠点を増設したりすることが極めて難しい点だ。
半導体チップは、発注から納品まで最低でも半年はかかる。生産委託のキャパシティーが逼迫している状況では、よほどの上客でなければ1年前からスケジュールを確保しなければならない。
供給が逼迫すれば価格を押し上げることは必至で、消費者の視点ではエンドユーザー向け製品の品不足、あるいは価格上昇という形で影響が及ぶだろう。あるいは人知れず、製品の提供が延期、中止されるといったことも考えらえる。
さらに半導体チップの性能が、そのまま商品の魅力へと転嫁されるジャンルでは、そもそもTSMCの最新プロセスを利用できるか否かという、直接的な調達能力がそのまま商品の魅力へとつながる。
昨年、アップルが独自設計したチップを使い、iPhone、iPad、Macの3つの製品カテゴリーで、ライバルを圧倒する性能や省電力性を実現した。これはアップルが設計したチップの優秀性以前に、圧倒的な規模の調達力を生かしてTSMCの最新生産技術を真っ先に支えたからだった。
TSMCへの依存度が高いのはアップルだけではない。スマホ市場を席巻しているクァルコムやAI分野で成長するNVIDIAなど、多くの半導体企業がTSMCの生産能力に依存している。テレワーク需要もあり、情報機器向けニーズは高い状態を維持しており、これらの需要は今後“落ち着く”ことはなく、むしろ高まっていくと考えた方がいいだろう。
コロナからの滑らかな立ち上がりを期待できるのか
半導体業界のトレンドを見てきた読者からすれば、今さら何をいわんやだろうが、今後はさらに半導体供給の逼迫、生産キャパシティーの確保が困難になっていく。
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