定年延長に向けた人事制度改革(2) 優秀なシニア人材の“望まぬ離職”に歯止めをかけた会社の成功例:定年延長のリアル(1/3 ページ)
筆者が実際に定年延長を支援した企業の事例をベースに、定年延長における人事制度改定の進め方・ポイントについて具体的に見ていく。
連載:定年延長のリアル
本連載では、高年齢者活用というテーマの中でも企業の関心が最も高いであろう、「65歳への定年延長(あるいは70歳までの雇用)」を取り上げ、各企業の実態に即した定年延長の進め方や、実際に定年延長を行った企業の実例をもとにした成功ポイントを解説します(著者:森中謙介)。
ここ最近、企業の定年延長に関するニュースが続々と舞い込んできています。
阿波銀行は2021年4月から定年を65歳に延長することを決定しました。全国の地方銀行では初めてです(「阿波銀行、4月から定年65歳に延長 昇進・昇格可、賞与も」徳島新聞電子版/21年3月24日)。
阿波銀行の定年延長に伴う人事制度改革の特徴としては
- 60歳以降も昇進、昇格可能
- 賞与支給あり
- 60歳以降は給与が1割程度減るが、希望すれば勤務日数や勤務時間を減らせる
──といったことが紹介されています。現役時代と完全に一致はしていないものの、「人事制度接続型」(本連載第3回で紹介)」での定年延長に近い印象を受けます。
現在の制度である定年再雇用制度よりも処遇は引き上げているように思われますし、シニア活用を積極的に進めていこうとする意図が伺えます。
大手民間企業を中心とした動きも活発です(「シニアの働き方が変わる! YKKは定年廃止、ノジマは80歳まで延長可」週刊朝日/21年3月26日)。記事によると、建設機械大手のコマツが21年4月から「選択定年制」の導入を決定(仕組みとしては、一般職が60歳or65歳、管理職が60歳or62歳のいずれかを選択できる)。退職金の支給時期などを考慮すると、シニアが自身で定年時期を選べるオプションに関しては、今後採用されるケースが増えてくるものと予想されます。
既に65歳定年を実現している企業では、大半の企業よりもさらに2歩、3歩改革が進んでいます。YKKグループは21年4月から「定年を廃止」。大手企業で定年を廃止する例は非常に珍しいといえます。もちろん、YKKグループは12年とかなり早い時期から段階的に定年延長を進めてきており、フロントランナーといえる企業ですから、十分な準備期間、取り組み実績を経て定年廃止に至っていると考えられます。
家電量販店のノジマは、65歳定年後の再雇用契約を「80歳」まで延長する仕組みを既に取り入れている(20年7月から)など、企業によってさまざまな人事制度が見られます。
もっとも、本連載で述べてきているように、先行している企業事例の安易な模倣を行うことは非常に危険です。あくまで自社のシニア活用の必要性を分析した上で、自社に適した方針にのっとって人事制度を改革することが基本姿勢として求められます。
とはいえ、定年延長に関しては実際の企業事例がまだまだ少ない状況ですから、「現状分析および方針策定」がしっかりと整い、本格的に定年延長の議論を始めていこうとする企業にとっては、こうした実在企業の事例を研究し、良い部分を参考に取り入れていくことには大いに意義があると考えます。
シニア層の離職が相次いでいたA社の例
さて、少し前置きが長くなりましたが、第4回以降は筆者が実際に定年延長を支援した企業の事例をベースとして、定年延長における人事制度改定の進め方・ポイントについて具体的に見ていくこととします。なお、実在の事例であるという性質上、紹介する内容は限定的となりますので、その点はご容赦ください。
筆者がコンサルティングの支援を行った中小建設・工事業のA社(60歳定年制。定年後は継続雇用制度を採用)では近年、60歳以後のシニア層の離職が相次ぐようになっていました。なぜでしょうか。
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