少しずつ見えて来たトヨタの未来都市「ウーブンシティ」:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
トヨタが実験都市「ウーブンシティ」の発表を行ったのは2020年1月のCES2020だ。ウーブンシティはさまざまな意味でまさに実験的な街である。そしてその面白さはいたずらにハードルを上げていないところにある。そもそもウーブンシティの基本構造はどうなっているのだろうか?
この中で特に面白いのは地下の物流通路だ。言うまでもなくトンネルである。ここに物流専用車両として「Nuro(ニューロ)」を走行させる。
なぜ地下なのか。それは自動運転車両の設計が簡単になり、コストが抑えられるからだ。地下であれば、降雨や降雪などの影響を受けず、路面は常に同条件である。照度と光の向きなどのコントロールが可能で、西日を受けた中での難しい画像処理などがいらない。そして人や自転車などが混走しないので、リスク管理が容易である。
今回のウーブンシティのように、街そのものが更地からフリーハンドで設計できる条件であれば、そのように、自動運転によるラストワンマイルの設計を圧倒的に軽量化できるということだ。
もちろん、そうやってハードルを下げた自動運転だけで全てをまかなうことはできないし、未来に向けてはもっと多様な条件での自動運転を可能にしていくトライアルも必要だ。それは上に示した(1)の中で、「e-Palette」などが受け持っていくことになるだろう。しかし一方で、「Nuro(ニューロ)」のような簡易な仕掛けと専用インフラによって、コネクティッドベースの物流を実際に回してみることも極めて重要だ。この方法であれば、複雑な一般道での自動運転の完成を待つことなく、物流の実装実験が可能になるからだ。
さて、ウーブンシティはさまざまな意味でまさに実験的な街である。実験的なものはたいていそうなのだが、「できること」と「やっていいこと」の間には、安全や既存の規制やモラルなどの面で乖離(かいり)があるのが普通だ。ウーブンシティの面白さは、インフラ側の工夫で「できること」を「やっていいこと」に寄せてみせたところにあると思う。陶酔的な技術主義でいたずらにハードルを上げていない。「とにかくやってみる」ことは重要だが、チャレンジの博打性を薄める工夫をしない無策を容認する話とは別なのである。そうした工夫のお陰で、実現が早まり、そこにどんな暮らしが生まれるのか、いち早く体感することができるのである。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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