厚労省「パワハラ相談員がパワハラ」──防止法に隠された逃げ道と、10年かけて体質改善した企業の結論:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
「死ねといったら死ぬのか」──厚労省のパワハラ対策相談員が部下の男性にパワハラをしていたことと、給与の1カ月間1割減額という加害者への軽すぎる対処が明らかになった。いったいなぜ、このようなことが起きたのか。昨年6月から「パワハラ防止法」が施行されたが、厚労省は制定にあたり、たたき台にはなかった「ある文言」を追加していた。
素案の際に追加され、専門家から「なぜ、こんな文言が追加されたのか!」と疑問の声が噴出したのが、以下、太字化をした部分です。
2 職場におけるパワーハラスメントの内容
(1) 職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる「1.優越的な関係を背景とした言動 」であって、「2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、「3.労働者の就業環境が害されるもの」であり、1から3までの要素を全て満たすものをいう。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。
つまり、「経営上の理由」と企業が主張すれば、いかなる行為も許されてしまう可能性が出て来てしまったのです。
さらに、「3.労働者の就業環境が害されるもの」の判断に当たり、
「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者の多くが、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当である。
個別の事案について職場におけるパワーハラスメントの該当性を判断するに当たっては、
業務上必要かつ相当な範囲を超えた 言動で総合的に考慮することとした事項のほか、当該言動により労働者が受ける身体的又精神的な苦痛の程度等を総合的に考慮して判断することが必要。
……といった具合に、「平均的」「総合的」という、実に曖昧で、官僚的な言葉を入れ込みました。そして、この総合的な判断をする責務を任されたのが、「職場のパワハラ対策の相談員」です(P5より該当箇所)。
個別の事案の判断に際しては、相談窓口の担当者等がこうした事項に十分留意し、 相談を行った労働者(以下「相談者」という。)の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、相談者及行為者の双方から丁寧に事実確認等を行うことも重要である。
繰り返しますが、「客観的」「平均的」「総合的」という言葉は、それまでの専門家との議論ではなかった文言です。素案が公表された18年11月に、「これではパワハラの定義を矮小化している」と、専門家が抜本的修正を求めたにもかからず、制定された「パワハラ防止法」に、その“問題の部分”はしっかりと記されてしまったのです。
今回、パワハラが行われていたのは、「パワハラ防止法」施行以前ですし、元室長補佐がいつまで「パワハラ対策相談員」だったのかも分かりません。
しかし、厚労省自身が法律の中で、「パワハラ相談窓口の担当者」の役割が極めて重要だと記載しているのに、「パワハラ防止を所管する省として誠に遺憾で反省している」だの、「職員への研修を再徹底したい」だの、至極曖昧なコメントを出して、ジ・エンドでは、全く納得できません。
だいたい「パワハラ」自体は個人間で行われるものですが、そういった言動を引き起こす責任は組織にあります。「パワハラをなくせば、組織が元気になる」のではなく、「元気な組織にはパワハラ」は存在しません。
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