厚労省「パワハラ相談員がパワハラ」──防止法に隠された逃げ道と、10年かけて体質改善した企業の結論:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
「死ねといったら死ぬのか」──厚労省のパワハラ対策相談員が部下の男性にパワハラをしていたことと、給与の1カ月間1割減額という加害者への軽すぎる対処が明らかになった。いったいなぜ、このようなことが起きたのか。昨年6月から「パワハラ防止法」が施行されたが、厚労省は制定にあたり、たたき台にはなかった「ある文言」を追加していた。
厚労省のトップに、「自分たちの組織の問題」という認識があるのでしょうか? 「複数の部署や窓口などに相談したが、どこも機能しなかった。退職にまで追い込まれた」とパワハラを受けた男性が語るリアルを、厚労省のトップは、どう受け止めているのでしょうか?
どんなに相談窓口やら、相談員を設けたところで、トップに「パワハラを絶対になくす!」という揺るぎない決意がない限り、パワハラはなくなりません。
以前取材させていただいた企業では、1990年代初頭から、パワハラなどの人権に関する問題に取り組み、10年がかりで、やっと、本当にやっと「社員の誰もが声を上げられる仕組みができた」と話してくれました。
最初は「社員目安箱」というベタな名前の意見箱を食堂に置くことから始まり、「何がパワハラか? 何がセクハラか? を理解しよう」と社員教育も徹底的に行いました。
しかし、「みんな過敏になってしまい、ささいな上司とのすれ違いや、上司のちょっとした言動まで報告する部下が急増した」という事態が続出し、「もっと根本的な問題解決に向けて取り組もう!」と、トップが指示。
そこで「上司と部下の関係を含め、社内の人間関係に関するあらゆる問題に取り組もう!」と、コミュニケーション推進室を設置し、さまざまな角度から調査を実施し、手を替え品を替えいろいろな教育をし、散々取り組んだ結果、たどり着いたが、「円滑なコミュニケーションに尽きる」というシンプルな結論でした。
「パワハラなどの人権に関する問題を解決するには、日常的に円滑にコミュニケーションを図る努力しかないんです。パワハラ対策ではなく、パワハラが起きないような日常を作るしかない。それが最大の対策なんです」と、取材を受けた際に断言しました。
12年に厚労省が設置したパワハラのワーキンググループの報告書には、専門家たちの“思い”がこう記されています。
「全ての社員が、家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さんであり、お母さんだ。そんな人たちを職場のハラスメントなんかでうつに至らしめたり、苦しめたりしていいわけがないだろう」
私たちは「労働者である前に人間」であり、「労働者は、その労働力を雇用者のために提供するが、その人格を与えるのではない」のです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
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