「内輪だからいい」では済まない侮辱発言、ハラスメントが続く組織は“コミュニケーション能力が低い”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
女性タレントの容姿を侮辱する演出を提案したとして、東京五輪の開閉会式演出の総合統括クリエイティブディレクターが辞任した。「内輪のことだから」と擁護する声もあるが、ハラスメントのほとんどは「内輪」で起きた出来事だ。こうしたハラスメントや差別発言は、無意識の思い込みと、コミュニケーション能力の低さから起こっている。
立場を全く“わきまえない”人たちの、差別、偏見、さらには低俗発言が止まりません。女性タレントの容姿を侮辱する演出を提案したとして、東京オリンピック・パラリンピック開閉会式演出の総合統括クリエイティブディレクター、佐々木宏氏が辞任しました。
一連の辞任劇では、「発言自体は問題」とする一方で、擁護する声もあがりました。
「でも、あれって内輪で言ってたことだし」
「そうそう、謝って、撤回したんだし」
「だいたい一年も前のことだろ」
「生きづらい世の中になったな」
「そうだよ、これじゃ何にも言えなくなる」
などなど、といった具合です。
確かに、佐々木氏の発言は本来クローズの、LINE会議であったものです。しかし、ハラスメントのほとんどは「内輪」で起きた出来事です。「内輪なら何を言っても許される」という考えが、人を傷つける。どんなに悔しい思いをしても、「ジョークだよ」「酒の席だし」「そんなにムキになるなよ」「いい年なんだかさ」と周りの人たちに諭され、たくさんの人たちが涙してきました。
ハラスメントという言葉が一般化してなかった昭和の時代にだって、声を上げることもできず涙した人たちは山ほどいました。私がこれまでインタビューした700人超の中にも、過去のハラスメントを告白してくれた人たちがいました。
どんなに時間がたっても、傷ついた心、嫌な思い、悔しさは、消えることはありません。本人に直接いったわけじゃないからいいとか悪いとか、そういう問題でもありません。
生きづらい世の中になった? これじゃ何も言えなくなる? という意見も、全くもってわけが分かりません。「人を傷つける言葉がいえない世の中」のどこが、生きづらいのでしょうか。生きづらさを感じているのは“あなた”ではない。幼稚な発想をこういった言葉で正当化する“あなた”のような感覚が、生きづらい世の中にしているのです。
ハラスメントの問題は極めて根深い問題なので私自身、さまざまなメディアに繰り返し書いてきました。差別発言のほとんどは、「無意識バイアス(アンコンシャスバイアス)=思い込み」に起因しています。
無意識バイアスは「社会に長年存在した価値観や、外部から刷り込まれた価値観」です。無意識であるがゆえに、ついポロリと出る、実に厄介なものです。(詳しくはこちらをどうぞ:「『CAは女性』? 学ばぬトップと淘汰される組織」日経ビジネス)
しかし、どんなに無意識であっても、人間はそれを止める力も持ち合わせている。それが「敬意」です。
自分より“上”の人には、敬意というブレーキを効かせることができます。ところが、自分より“下”に見てる相手にはそれができない。“上”の人には絶対に言えないようなたわ言を、“下”の人には吐き続ける。敬意=ブレーキが効かないので、言いたい放題です。
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