「内輪だからいい」では済まない侮辱発言、ハラスメントが続く組織は“コミュニケーション能力が低い”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
女性タレントの容姿を侮辱する演出を提案したとして、東京五輪の開閉会式演出の総合統括クリエイティブディレクターが辞任した。「内輪のことだから」と擁護する声もあるが、ハラスメントのほとんどは「内輪」で起きた出来事だ。こうしたハラスメントや差別発言は、無意識の思い込みと、コミュニケーション能力の低さから起こっている。
とりわけ「権力のある人」ほど人を属性で判断し、敬意なき横暴な振る舞いをする傾向が強いことが分かっています。権力で味わう絶対感が「情報を処理する能力」を著しく短絡的にしてしまうためです。
さらに、「権力は人を堕落させる」という通り、人はしばしば自分でも気が付かないうちに「権力の影響」を受けます。その影響力は極めて強力かつ広範囲に及ぶため、 権力者は他者からの干渉を免れることも可能です。
つまり、どんなに愚かな発言や振る舞いをしようとも、周りはそれに黙従する。そうせざるを得ない非対称の人間関係が階層組織には存在するのです。
それは権力者のコミュニケーション能力の脆弱化につながります。
コミュニケーションは「言葉のキャッチボール」といわれるように、本来、投げられた言葉の意味を決めるのは「受け手」側です。「そういう意味ではなかった」「傷つけるつもりはなかった」では通らないのがコミュニケーションです。
しかし、そこに権力があると“彼ら”は「受け手」のことなど気にせずとも、コミュニケーションが可能になります。「ヨイショ、ドッコイショの先回りコミュニケーション」つまり、忖度をしてくれる人が山ほどいるため、コミュニケーション能力が低くても物事が回るのです。
職場でのハラスメントが「酒の場」で多いことも、上司のコミュニケーション能力が関係しています。
オフィスの中で、パワハラ、セクハラ、モラハラ、など、ハラハラだらけで部下とのコミュニケーションにビビっている“上司”が、自分のコンフォートゾーンである「飲み屋」に踏み入れた途端、職場でクローズしていたコミュニケーションの扉を全開に。しかし、何を話していいのか分からない。
セクハラはダメ、女性が不快に思うことをしてはダメ、って分かっているのに、つい「彼氏はいるのか?」というセクハラになりかねない発言をしてしまったり、下品なネタで笑いを取ろうとしてしまったり。下ネタで笑ってくれる人が1人でもいたら「ウケた」と勘違いし、ハラスメントになりかねない発言をエスカレートしてしまうのです。
もっともハラスメントは、女性だけにむけられたものではありません。女性差別と男性差別はコインの表と裏。男性の容姿をイジったり、結婚していない男性に「俺らの時代には結婚して一人前だった」などと説教をしたり。私の感覚では、女性にセクハラまがいのことを平気で言う人は、男性にも同様のハラスメントをする傾向が強いように思います。
また、世間には「イジりといじめの境目が難しい」などという人がいますが、本人が不快を感じる言動は全ていじめです。ハラスメント問題を「相手が決めるからめんどくさい」という人がいますが、前述した通りコミュニケーションの主導権は受け手にあります。
コミュニケーション不全は、職場でおこる全ての問題の原点といっても過言ではありません。
コミュニケーションで悩むのはアクションを起こす側なのに、「アクションを起こされている側に決定権がある」という不条理があるからこそ、コミュニケーションが永遠のテーマになりうるわけです。
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