「同一労働同一賃金」は何を目指すのか? “均衡”と“均等”を理解せよ:非正規雇用をめぐる現状【前編】(1/2 ページ)
「同一労働同一賃金」関連法を読み解くために必要なキーワード、“均衡”と“均等”とは? 労働人口の約4割を占める、非正規労働者をめぐる現状を解説する。
企業で働く「従業員」には、正社員だけではなく、短時間勤務(パートタイマー)や有期雇用の契約社員がいます。本記事では後者を「非正規社員」と称して、正社員と区別して説明します。
パートタイマーというと、かつては家計補助のために短時間だけ働く主婦が多くを占めていました。しかし最近は、正社員の採用から外れた若年者や、生計の担い手でありながら企業のリストラなどにあった壮年者が、非正規社員として働いている例が増加しています。
非正規社員の実態と、同一労働同一賃金の背景
もともと非正規社員を希望するのであれば問題はないのですが、正社員として働きたいが、やむなく非正規社員にならざるを得ない人もいます。このような人を「不本意就労者」といいますが、かなりの数に上っています。また女性が子育てのために、初めから正社員になることを諦めている人がおり、不本意就労者にはカウントされていません。
このような潜在的な人も含めると、実質的な不本意就労者が相当多数いると推定されています。
一方、企業は正社員を絞り込んで、非正規社員を主な労働力として積極的に採用するところが増えています。その結果、総務省の「労働力調査」によると2019年で非正規社員の比率は、全労働人口の37.7%、約4割に達しました。
さらに注目しなければならないのが非正規社員の賃金水準です。国税庁の「平成30年分民間給与実態統計調査結果調査」(19年発表)によると、非正規社員の平均年収は179.0万円でした。これに対して正社員の平均年収は503.5万円ですので、非正規社員は正社員と比べると約36%程度となります。
このように年収が平均179万円の非正規社員は、全労働人口の約4割を占めているというのが現状の日本の姿なのです。前回の記事で、日本の平均賃金がG7で最下位、OECDでも低水準グループに位置するようになったと報告しましたが、その理由の一つになっていると考えられます。
経済を動かすものは政府、企業、国民の3つの主体であり、国民は買物をして個人消費をします。その消費力は日本の経済力を示す指標であり、その源泉は賃金です。
ところが、非正規社員の平均年収が179万円で約4割を占めるという状況では、日本全体の消費が伸びず、日本経済の活性化を困難にさせていると指摘されています。また国民の間に所得格差が生ずると、経済の成長が抑制されるという法則がありますが、その現象も起きているといわれています。
このままでは日本経済の復活は難しいと考えられたことから、非正規社員の賃金水準を引き上げて、国民全体の消費を押し上げて、次の経済の成長につなげていく必要があります。そこで非正規社員の賃金水準の底上げのため、働き方改革関連法改定の一つとして「同一労働同一賃金」関連法が改正となりました。
同一労働同一賃金の目指すものとは?
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