ホンダの「世界初」にこだわる呪縛 自動運転レベル3に見る、日本の立ち位置:高根英幸 「クルマのミライ」(3/5 ページ)
以前から予告されていた、レベル3の自動運転機能を搭載したホンダ・レジェンドが、いよいよ3月に発売となった。しかし発売を心待ちにしていた高級車好きにとっては、少々期待外れの内容だったかもしれない。というのもレベル3の自動運転が極めて限定的であり、なおかつ販売も極めて限定的だからだ。
20年6月にWP29で、高速道路上での時速60キロ以下において作動する車線維持機能に限定した自動運転システムが、国際基準として採択された。日本はこれに先立って4月に、公道上での自動運転レベル3が運転の範囲内に収まるよう、道路交通法を改正している。
つまりレベル3をいち早く法整備して実用化することが、実績作りとして必要だったのではないか。今後も自動運転の国際基準を策定していくにあたって、イニシアチブを握り続けるためには、いち早くレベル3を世に送り出す必要があるという日本側の思惑が見え隠れするのだ。
欧州でも中国でもそうした活動は行っているだろうし、中国のNEV(無公害車)規制のように国家レベルで規制を敷くことにより、自国産業の発展を促そうという政策は珍しくない。
自動運転の分野もそうした覇権争いが行われており、日本はまだリーダー的存在だ。自動運転の技術開発の方向性を決めるかじ取りであり続けるために、この段階での成果を世に知らしめるのは、大事なことだったのだ。
そう考えるとリース販売のみで100台限定、というレジェンドの販売方針にも納得がいく。価格も1100万円と、通常のレジェンドと比べおよそ375万円高いのも、レベル3の開発コストを考えれば安過ぎるといえるものだが、それを一般のドライバーに負担させるわけにもいかないだろう。
リース販売としたのも、購入後も自動車メーカーの管理下に置いて、常に安全性や信頼性を確認できる体制とするためだと想像できる。つまり今回のレジェンド・ホンダセンシングエリートは、研究機関や関係省庁が実験的に導入する車両という位置付けなのだ。まだまだ市民の足になるほどの商品にはなり得ないのである。
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