ホンダの「世界初」にこだわる呪縛 自動運転レベル3に見る、日本の立ち位置:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
以前から予告されていた、レベル3の自動運転機能を搭載したホンダ・レジェンドが、いよいよ3月に発売となった。しかし発売を心待ちにしていた高級車好きにとっては、少々期待外れの内容だったかもしれない。というのもレベル3の自動運転が極めて限定的であり、なおかつ販売も極めて限定的だからだ。
レベル3は単なる通過点、ドライバーの技術を超えてこそ意味がある
ところでレベル3の自動運転については、市販しないことを明言している自動車メーカーも存在する。それはレベル3とレベル4の技術的な違いが少ないだけでなく、制度としてのレベル3の危うさを問題視していることもある。
レベル3の自動運転は、システムに運転の主権があるとしながらも、システムが異常を知らせた時には主権を委譲できるよう、ドライバーは準備しておく必要がある。つまりドライバーに瞬時に運転交代を強いる可能性があるシステムは「果たしてヒトに優しいのか」ということだ。
いうなればそれは、さっきまで助手席や後席でくつろいでいた人間が、高速道路でいきなり運転を任されるようなものだ。自動運転を望むユーザーは、運転からの解放を望んでいるが、まだまだそれは実現できそうにない。
ドライバーを助けるというより、共に運転するレベルと考えた方が間違いは少ない。目的地へのルートを確認したり、信号や標識を共に確認したりするような助手に近い存在が、レベル3の自動運転車の運転席に座るドライバーなのだ。
高速道路の最高速度が時速120キロに引き上げられた現在、高速道路上での自動運転実現をうたうのであれば、時速140キロ程度まで対応しなければ、使い物にならない、と考えるのが普通だ。しかし進路上の障害物を検知するカメラやミリ波レーダー、LiDAR(赤外線レーザーレーダー)といった自動運転の眼は、実はそこまで高速で近付いてくるモノに対応する分解能を持ち合わせていない。
ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)が対応可能なのは、前走車との相対速度がそこまで大きくならないからであり、高速道路上に突如として現れる落下物などには、まだ対応できていないのである。
そう考えると、レベル4の自動運転は本当に実現可能なのか、と思われる方もいるだろう。ここについては、パーソナルカーとソーシャルカーの自動運転を分けて考えることが必要だ。
ソーシャルカーにおいては、例えばトヨタは自動運転車の「e-Palette」を、将来のモビリティサービスの基幹としている。レベル5の自動運転車が実用化されれば、無人の貨物トラックやコミュニティバスが街を走り回るようになるのは、自然な流れだ。
トヨタのe-PaletteはEVの完全自動運転車で、目的に合わせて室内空間の仕様を変更して対応できるモビリティ。コミュニティバスや移動販売車、宅配便輸送などさまざまな使われ方が想定されているが、定められたルートを低速で走行することが前提の乗り物だ
しかしパーソナルカーでは、完全な自動運転の導入は相当に時間がかかるだけでなく、使われ方も限定的になる。前述の運転における刑事上の責任もあり、また幅広い使い方やさまざまなイレギュラーな事態に対応させるには、膨大なデータによる学習でも絶対に不十分なケースが出てくる上に、高度で複雑なシステムになるほど、それを恒久的に安定させることは難しくなるからだ。
自動運転車は、スマホやPCのように、システムがおかしくなったからと走行中に再起動するわけにはいかないのである。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行なう「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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