組織を悩ます「不祥事」と「社員の処分」 それでも“もみ消す”企業が多いワケ:正直者をつぶすな(4/4 ページ)
厚労省職員の飲み会問題が波紋を呼んでいる。郵便局でも、内部通報した職員に対する対応が問題となっているなど、企業の不祥事はなかなか絶えない。なぜ、真正面から向かい合わず、“もみ消す”方向の企業が多いのか。
いかなる組織体であっても、有する権限と責任はイコールでなければつじつまが合わなくなります。組織の中で権限を有している者は、組織を良い方向にも悪い方向にも導く力があります。だからこそ責任を取ることができるのであり、「責任者」と呼ばれるのです。権限を有し権力を振るった者が責任を取らないような処分になど、納得感が生まれるはずがありません。組織における処分の在り方は、その組織の健全性を左右するのです。
4月3日、西日本新聞は「内部通報者に『つぶす』 脅した郵便局幹部ら7人処分」という記事を報じました。本来であれば通報内容を精査して組織改善に取り組むべき責任と権限を有する者が、責任を果たさないどころか、逆に権力を振るって内部通報者を「つぶす」と脅したという不祥事です。報じられた内容が事実であれば、処分された幹部たち個人の資質はもちろん、そういう歪(ひずみ)を生み出している組織自体も大いに問題です。
処分を受けた幹部が7人に上ることからも、組織体質を根底から改善しなければならない状況にあることが見て取れます。今回の処分は適切だったのか。他局員たちは、会社が下した処分をどう受け止めているのか。納得感がある処分であれば、組織には自浄作用が働き、健全な方向へと舵を切ることが期待できます。一方、形だけのパフォーマンスだと受け止められてしまえば、内部通報制度は形骸化し、組織の腐敗は加速していってしまいます。
正直者に報いる組織を
内部通報者がやり玉に挙がってしまうような「正直者がばかを見る」体質は、組織だけでなく、所属する人の心まで腐らせてしまいかねません。本来“つぶす”べきは内部通報者ではなく、無責任に権力だけを振るおうとする“権力亡者”と、そんな亡者を生み出す組織体質の方です。
私たちは誰もが少なからず、何らかの組織に属して生活しています。もし自らが所属する組織にとっての正義が、社会の価値観と合致しないと感じたときは危険信号です。
社会の価値観の方が誤っていると感じるのであれば、堂々と主張し、社会認識をリードする側になればよいはずです。しかしそうではなく、本当は社会の価値観の方が正しいと感じるのであれば、疑うべきは自分や社会の価値観ではなく、自分が属する組織の中で正義とされている考え方や組織体質の方であるはずです。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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