「米国型の血の通わないドライな制度」なのか オリンパスも導入する「ジョブ型雇用」への誤解とは:報酬体系・評価手法は?(2/2 ページ)
オリンパスが2019年4月から1800人いる管理職に対し、ジョブ型の人事制度を先行導入した。同社ヒューマンリソーシズヘッド(人事・総務担当)の大月氏は「日本の人々は、ジョブ型人事について誤解している部分がある」と力説する。どういう誤解だろうか。
従来は、年功序列要素を含んだ職能資格に基づく基本給が設定されおり、それに賞与が加算される形だった。賞与の中にジョブ加算が設定されていた。新制度では、職務給の考え方に移行し、職務の大きさ(ジョブサイズ)に基づいて、固定給である基本給が決まる。ジョブ加算を基本給に組み入れた形だ。賞与に関しても、評価が反映される変動型に移行する。
では、ジョブ型人事における、個人の評価はどのように実施されるのであろうか。大きく分けて、業績評価と行動評価の2階建て構造を形成している。業績評価は、期初に上司と部下の間で目標管理を設定し、期末にそれを評価することで決定。それに行動評価が加味されることで、加減点計算が行われる仕組みだ。
行動評価というのは、オリンパスが企業価値の向上を目指して設定した5項目の「コアバリュー」(社員の行動規範のようなもの)から、 個人で注力する行動を設定し、 3段階で評価するというもの。この業績評価と行動評価を総合して昇給や賞与が決定する。
ジョブ型に合わせてヒエラルキーの垣根を取っ払う
19年4月に管理職にジョブ型人事を導入したのと同時に、決裁・承認フローの簡素化も実施している。それまでは本部長、部長、課長といったヒエラルキー構造とリンクする形で決裁・承認のルートが定められていた。日本の企業に多い調整・根回し型の業務フローだ。この場合、決裁に時間を要し意思決定が遅くなるという欠点がある。
そこで、新しい決裁・承認のフローでは、ヒエラルキーの垣根を取っ払った。「ジョブが明確になったことで、各ジョブに責任を持っている人が、必要な調整を自分で実施するという形に再構築した」(グローバル人事戦略/ディレクターの藤井博之氏)。意思決定の迅速化が実現しただけでなく、「ジョブに見合った処遇を明確化することも可能になった」と藤井氏は胸を張る。この改革で管理職における、社内調整業務のような仕事が軽減されたという。
大月氏は、ジョブ型人事は、社員の多様性尊重という意味でも親和性の高い制度と説明する。年齢や性別といった属性に左右されず、フェアな処遇が期待できるからだ。実際、ジョブ型人事は、同一労働同一賃金の課題を解決する手段として、注目されている。
オリンパスでは、制度改革の一環として、社員の多様なライフステージに応じた働き方にもメスを入れようとしている。休職制度の改革もその一つだ。例えば、現状の育児休職制度は、「完全に休職する形でしか利用することができない。社員の要望との間でギャップが出始めている。完全休職の場合、復職した際に、変化に取り残された“浦島太郎状態”になると不評だ。そこで、短時間勤務のような働き方が可能になる仕組みを現在構築中」(HRコミュニケーションズ/エキスパートの小寺直子氏)と明かす。
前述のように、現在は、管理職にのみ導入されているジョブ型人事だが、22年4月には、組合員(一般社員)への導入を予定し、労働組合と交渉しているという。日本社会全体を見渡しても、長年勤め上げると自動的に報酬の上昇が約束されている年功型の給与体系は、過去のものになろうとしている。
以前、ある人事コンサルタントが、これからの時代「仕事をしなくても平然と給料をもらえるスキルを磨くことが必要」と説いており、筆者は思わず目をむいてのけぞってしまったことがある。つい昨年の話だ。さすがにそのような社員は、ジョブ型人事でなくともお払い箱になりそうだが、新しい人事制度の下では、働く側も意識を再構築しなければ、社内で生き残っていけない時代がやってくるのだろう。
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