「優秀な社員から辞める」自業自得──希望退職という名の”企業の自殺”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
希望退職を募る企業が増えている。「辞めてほしい人は居座り、優秀な人ほど辞めてしまう」と嘆く企業も多いが、希望退職の捉え方が間違っているのではないだろうか。
「86人は業務継続に影響がある」、業務継続に影響がない人は辞めていい、というのはリストラリストの存在の肯定です。もっともそういうものが存在することくらい誰だって分かっているけど、「86人は業務継続に影響がある」という文言が企業側から出るとは……あまりに露骨です。これを「経営」と呼べるのでしょうか?
経営とは「人の可能性」を信じることなのに、その可能性より目先の「カネ」を優先する企業が増殖している。「人は信頼される」からこそ、その人を信頼するのであって、自分を信頼しない、コストとしか見ない会社を「優秀な人」が捨てるのは、ごくごく自然の摂理です。
ましてやコロナ禍では、多くのビジネスパーソンが「うちの会社は大丈夫なのか?」と先行きの見えない不安に翻弄されている一方で、「もっと頑張りたい、もっと活躍したい、もっと成長したい」という内的なエネルギーを高めています。
そんなタイミングで、「○歳以上の社員を対象に早期退職者を募集します!」などと告知され、「○歳以上の人は、順次面談をします!」などというメールが、ピロリンと来れば、「退職金の増額分が減らされる前に辞めよう」と決断する人が増えることくらい、経営者なら分かっているはずです。
特に50代になると、自分の仕事の質には「まだまだ高められる」と思える一方で、体力の衰えはありとあらゆる場面で痛感させられるのですから、「あなたにはまだいてほしい」と言われたところで、馬の耳に念仏? のれんに腕押し? 聞く耳を持つわけがありません。
私はこれまで全国津々浦々1000社以上の企業を、取材やら講演会やら訪問しているのですが、その中の多くが希望退職制度を設けていました。しかし、同じ制度でも「年長者のリストラ」の手段にしているか、「社員の権利のための制度」にしているかで、社員の反応も会社の空気も全く違います。
「年長者のリストラの手段」にしている企業は前述の通りです。一方、「社員の権利のための制度」としての希望退職制度を設けている企業は、社員を尊重し、「人の可能性を引き出す」さまざまな仕組み・制度をきちんと作っている。つまり、希望退職制度もその中の一つにすぎません。
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