バブルの名残 温泉街の「大型施設」が廃墟化 鬼怒川と草津の違いと「大江戸温泉物語」の戦略:どう立て直す?(6/6 ページ)
コロナ禍がもたらす温泉街への影響は甚大だが、「温泉の魅力」として考えさせられるのが“街づくり”という点だ。筆者は「施設そのもので集客できる強い宿は例外的で、温泉地の魅力自体が集客を左右する」と指摘する。
山中温泉街を歩くと電柱が見当たらないことに気付く。電柱を埋めるプロジェクトもその頃になされたものだという。同地で「吉祥やまなか」「かがり吉祥」と2施設の総支配人を務める村井博氏は「お越しいただくお客さまにフレキシブルに対応できることが自慢」と胸を張る。
「それぞれの店舗によって年齢層や個人・グループなどターゲットを明確にし、充実したサービスの提供が実現できる」(村井氏)。これも個人のお客へシフトしてきた山中温泉の先見性の賜物(たまもの)と、山中の地で宿を運営できる喜びを感謝に満ちた表情で語る。
施設のスタッフとの雑談で「山中温泉は渓谷美で知られるが、目立つ廃墟はあるか?」と聞いてみた。するとそのスタッフは「廃墟? う〜んどうだろう……。閉館した施設もあるがパッとは思い浮かばない」とのこと。「そもそも大規模な建物は似合わない温泉地かもしれない」と付け加えた。
宿を出て散策していたら山中温泉の渓谷美が望めるという「眺望広場」なる場所があった。広場に立って迫力の渓谷を眺めてもそこに廃墟の姿はない。眺望自慢の広場という存在そのものが鬼怒川への皮肉にも思えてしまった。
温泉街は、良い雰囲気を醸し出して営業を続ける古い商店も印象的だ。共同湯を中心とした温泉街と伝統文化は、浮かれる時代も厳しい時も何が大切なのかを問い、そして守ってきたのだろう。温泉は文化といわれる。だからこそ文化成熟度は温泉街の価値を高めるのだ。
著者プロフィール
瀧澤信秋 (たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)
一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。
日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。
著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。
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