男性育休を1カ月必須化、取得率4%→100%に 江崎グリコ「Co 育てProject」が社内に浸透するまで(2/5 ページ)
2019年に江崎グリコで始動した「Co 育てPROJECT」。そのなかで、育児休暇を1カ月間取得することを必須化した新制度「Co 育てMonth」を設け、男性社員も100%の取得を実現した。とはいえ、1カ月も休む・休ませるのには、壁は高かったに違いない。どう進めたのだろうか。
社内制度の改定はさきの通り2019年3月に行い、対外的な3つの取り組みについては2月以降に順次稼働した。「商品」については、日本で初めての「乳児用液体ミルク」の発売、「サービス」としては、子育てアプリ「こぺ」の無償提供を行っている。
「乳児用液体ミルク」は、調乳済みの液体状のミルクで、お湯で溶かす必要がなくそのまま哺乳瓶に移し替えるだけで赤ちゃんに与えられる。夜の授乳時や仕事で授乳ができない母親の助けになるほか、母親以外でも誰でも簡単に授乳することができるので、「みんなでCo 育て」を推進する商品である。
「父親の育児を支援する商品として好評です。常温で6カ月保存可能なので、非常時の備えとしても活用されています」と、利用が広がりつつある様子だが、より認知を広げたいと意気込む。
子育てアプリ「こぺ」は、妊娠期から子どもが2歳になるまでの約1000日間をサポートして、「Co 育て」を促すもの。当初は夫婦向けだったが、ヒアリング調査などを経て2020年12月に「みんなでつかえるアプリ」として進化させた。
アプリの機能としては、「おむつを買いに行く」などのタスクをみんなで共有できる「ToDo ボード」、みんなで赤ちゃんの成長を記録できる「育児ログ」、医師の監修による妊娠・子育てに役立つ情報の提供などがある。さらに、コロナ禍において実施したアンケート調査の結果を踏まえて、「ココロとカラダの健康無料電話相談室」を追加。看護師やケアマネージャーなど専門家を相談員としてそろえ、多種多様な悩みを相談できる仕組みを整えている。「こぺ」の利用者数は非公表だが、コロナ禍で増えているという。
「アプリ内アンケートから、実はお父さんも育児にはもっと参加したいし知りたいのだけれど手段がなかった、ということも分かってきました。これまでお母さんにしか届かなかった情報をみんなで共有することで、コミュニケーションの円滑化につながっています」。こうした取り組みは、「社員を含め対象者を観察し、変化する子育て環境に合わせて自社としてどんな取り組みをするかを常に考えている」ことから生まれるという。
「育児に関する情報は、出産前に両親学級を受講したとしても、やはりどうしても忘れてしまいがちです。しかしアプリで毎日やりとりしていると、習慣づいて当たり前のものとなります。それが、私たちがめざすCoparenting、“一緒に子育てする”ということです。また、こうしたコミュニケーションを取っていると、子どもにもいい影響が出ることが国内外の研究でも分かっています」とアプリの意義を語る。
「こぺ」は、自治体単位でも活用が広がるなど、産官連携が進んでいる。
さらに、Coparenting を加速させるべく(2020年9月より)自治体、企業向けに「Co 育てプログラム」として、プレパパ・ママたち、出産後パパ・ママたちを対象に、Co 育てコミュニケーションを促進する60分のワークショップを実施。当初は対面でのワークショップのみだったが、コロナ禍で急きょオンライン版も開発。自治体などが主催する両親学級が中止・制限される中、自治体から導入希望の声がかかるなど、新たな連携が生まれている。
「オンラインだと参加しやすいというお父さんも多く、いろんなチャンスがみえてきました」と前向きに捉えている。
男性育休必須期間を5日間から1カ月にして「Co 育てMonth」を新設
以上が対外的な「Co 育てPROJECT」の内容である。ここからは育児休暇の改定など、社内での取り組みについて説明していく。
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