男性育休を1カ月必須化、取得率4%→100%に 江崎グリコ「Co 育てProject」が社内に浸透するまで(4/5 ページ)
2019年に江崎グリコで始動した「Co 育てPROJECT」。そのなかで、育児休暇を1カ月間取得することを必須化した新制度「Co 育てMonth」を設け、男性社員も100%の取得を実現した。とはいえ、1カ月も休む・休ませるのには、壁は高かったに違いない。どう進めたのだろうか。
「関連部門と連携し、まず部門ごとにマネジメント層に対して説明会を実施しました。加えて、休暇前の上長とのコミュニケーションや同僚への業務引き継ぎを円滑に進めるためのチェックリストを作成して案内しました。ただ、当社は多種多様な業務がある製造販売業であり、大まかなポイントは示しても、全ての業務を網羅する共通フォーマットはなかなか作れません。ですから現実的には、所属する部署で話し合って決めたり本人が独自に計画表を作成したりしています。これは、子育てをきっかけとした業務効率化で、この制度のもともとの狙いの一つでした。子育てはあくまでもきっかけで、結局本質的な課題に直面します。多様な人財に活躍してもらうには、業務改善を進め、柔軟に対応できる環境が必要です。属人化してしまっている業務を表面化するなど、部署内で話せるきっかけにしてもらえたらと思っています」
そして、「ですからこの制度は福利厚生という意味合いだけではないのです」としてこう続ける。
「子どもの健やかな成長を応援する企業であるならば、まずは自分たちで体現することが、子どもにとっての、社会にとっての貢献だというメッセージを常に発信しています。“社員のため”というよりは“社員を通しての社会のため”。経営戦略として取り組んでいる理由です」
もう一点気になるのは、大きなねらいがあるにしても、これらはいわば子育て中の社員に対する優遇制度と捉えられ、子育てをしていない人から不平不満など出ないのかということだ。
「それも想定していたので、サポートした社員の行動や成果については、人事評価にも反映できるようにしています」
従来から同社には、江崎グリコ社員として求められる行動ができたかの「行動評価」と、目標の達成度とプロセスを評価する「成果評価」の2つの評価軸がある。Co 育てMonth を取得した社員をサポートした人には、サポートしたこと自体が行動評価として評価され、さらに、引き継いだ業務で成果を出したら成果評価として評価されるようにした。
ちなみにCo 育てPROJECT メンバーのなかには独身男性もいて、視点が偏らないようにしている。
取得率100%を実現できた秘訣や仕掛け
スタートしてまだ約1年間の取り組みだが、社内アンケートでは、「子育てに対する意識が変わってきた」という取得者の声や、上司の理解が向上しているという数字が出てきており、「一定の効果は出ている」とみる。なお、取得推進に向けての取り組みとして、管理職向けのCo 育て講演会や研修も実施している(図表2)。
「採用にもいい影響が出てきています」という宮崎氏は、「Co育てMonth の取得に向けた業務引継ぎの取り組みは、今後、介護という問題が出たときにも生かせます。その意味では働き方を変える土壌づくりになっていくでしょう」と、子育てに限らない波及効果を期待し、「いつ誰が抜けても働ける体制をいまから整えることができる。これは大きな強みだと思います」と語る。
対象者の有休取得率100%となったことをはじめ、こうした効果が出てきたのにはどんな秘訣があったのだろうか。
関連記事
- 花王に聞く、目標管理「OKR」の運用方法 ポイントは「ハイレベル目標」と「必達目標」の融合
花王が「OKR」を導入。それまでMBOをベースにした目標管理制度を長らく採用してきたが、方針を転換した。その背景は。具体的にどのような運用をしているのか。 - 新卒応募が57人→2000人以上に! 土屋鞄“次世代人事”のSNS活用×ファン作り
コロナ禍で採用活動に苦戦する企業も多い中、土屋鞄製造所の新卒採用が好調だ。2020年卒はたった57人の応募だったが、21年卒は2000人以上が応募と、エントリー数が約40倍に急増した。その秘訣を聞いた。 - 「一部の人だけテレワークは不公平」の声にどう対応した? ユニリーバの自由な働き方「WAA」が浸透した背景を探る
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスでは、2016年に人事制度「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)を制定し、働く場所と時間を社員が選べる新しい働き方を取り入れた。しかし、工場やお客さま相談室など、一部の従業員は制度の対象外だった。「不公平」という声も上がる中で、どのように制度は浸透していったのか。島田由香さん(取締役人事総務本部長)に聞いた。 - 「正直、不安だった」 “ひとり人事”が入社直後、最初に取り組んだこと
2019年1月、note株式会社に「会社初の人事専任担当者」として入社した、北上あいさん。入社当時、採用活動は各事業を担当する役員が自ら採用計画を立てて実施していたという。そんな状況から、人材採用プロセス、評価制度などをどう整備していったのか。
© 人事実務