「悪質撮り鉄」は事業リスク、鉄道事業者はどうすればよいか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
有料道路を走る暴走族は、道路会社にとってお客様ですか。これと同様に「悪質撮り鉄」は、他の撮り鉄だけではなく、鉄道趣味、旅行ビジネスに悪い影響を与えている。本来、鉄道事業者が守るべきは「お客様の安全」であり、彼らはそれを脅かす存在だ。毅然とした態度が必要となる。
鉄道事業者は「悪質撮り鉄」と決別せよ
たびたび問題視された「悪質撮り鉄」のトラブルは、ついに傷害事件に至った。この事件をきっかけとして、鉄道事業者は毅然とした態度を示すべきだ。恨まれてもいい。「悪質撮り鉄」は客じゃない。悪質乗り鉄も然り。彼らの罵声は、本来、大切にするべきお客様を遠ざけるノイズだ。
このまま放置してイベント列車を走らせれば、撒き餌でサメをおびき寄せて漁場を滅ぼすようなもの。石ノ森章太郎のマンガ「HOTEL」では、悪態をついて他の客に不快な思いをさせる客を「キッカー」と呼んだ。実際のホテル用語で「要注意客」という意味。石ノ森はもっと踏み込んで「蹴り出してもいい存在」と言い切った。
鉄道事業者は施設管理責任問題を回避するために、まず駅構内から悪質撮り鉄を排除しよう。その方法として以下を提案する。
【施策1】駅構内の撮影禁止を徹底する
【施策2】駅構内でプラットホーム端などを撮影禁止エリアとする
【施策3】物理的に撮影不可能な構造とする
【施策4】駅構内撮影を有料化し、撮影者入場券を販売する
施策1は最もスッキリするけれど、善良な旅行者が駅構内で撮影できず巻き添えになる。私も困る。乗り鉄にとって列車を取る場所は駅だ。
施策2は、撮り鉄がたまりやすいプラットホーム先端部などのエリアを狙い撃ちする。これならプラットホーム中央の「旅の記念写真を撮りやすいエリア」を除外できる。
施策3は、すでにいくつかの駅で見掛けた。プラットホーム先端に物置や詰め所が設置されている。撮り鉄対策ではなく、その場所の都合がいいからだと思うけれど、結果として撮影しやすい画角がふさがれるため、撮り鉄は寄ってこない。今後はわざと遮蔽物となる施設を置いて、撮り鉄を敬遠させてはどうか。物置メーカーと協同で開発し、商品名を「撮り鉄コナーズ」としてはどうだろうか。
施策4は、免責施策だ。駅構内の全部または一部を撮影禁止としつつ、撮影希望者には安全講習、マナー講習を義務づけた上で、撮影者用入場券を販売する。券の裏面に順守事項と鉄道事業者の免責事項を記載してサインしてもらう。これは私がもっとも望んでいる形だ。悪質撮り鉄を排除しつつ「撮り鉄」を認めてもらいたい。
参考として、IGRいわて銀河鉄道は滝沢駅のプラットホームに鉄道写真撮影専用スペースを作った。安全に撮影できるように、約100万円かけて設備を整え、無料で開放している。気前の良い話だけど、記念品としてステッカーを販売しており、心ある撮影者は購入していくと思われる。カメラバッグにこれを張れば「マナーに配慮した撮影をしている人」と認識してもらえるかもしれない。
これらの実現に当たって、鉄道事業者のダブルスタンダードな対応も改めてもらいたい。私たちメディアは鉄道を紹介するために、平たくいえば鉄道の広報の片棒を担いでいるような仕事もする。それにもかかわらず、鉄道事業者から撮影協力費を請求されたり、掲載後に無許可撮影をとがめられたりする。しかし、アマチュアのブログやSNSの写真は野放しだ。承服しかねる部分であるし、鉄道事業者が悪質撮り鉄を放置した証でもある。
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