「悪質撮り鉄」は事業リスク、鉄道事業者はどうすればよいか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
有料道路を走る暴走族は、道路会社にとってお客様ですか。これと同様に「悪質撮り鉄」は、他の撮り鉄だけではなく、鉄道趣味、旅行ビジネスに悪い影響を与えている。本来、鉄道事業者が守るべきは「お客様の安全」であり、彼らはそれを脅かす存在だ。毅然とした態度が必要となる。
「撮り鉄三ない運動」を防ぐには
オートバイの「三ない運動」をご存じだろうか。オートバイについて「免許を取らせない」「買わせない」「運転させない」というスローガンが高校生を対象に掲げられた。その理由は自動車の普及と交通事故の増大であり、「オートバイに乗せると交通事故の被害者、加害者になる危険がある」というタテマエだった。しかし本音は暴走族の増加による「オートバイに対する嫌悪感」だったと思う。
「三ない運動」によって、純粋にオートバイを好きな生徒は趣味を奪われ、公共交通の未発達な地域でオートバイ通学したい生徒は不便を強いられた。「三ない運動」はその後、多くの自治体で「嫌悪するより交通教育に注力すべき」という方針が示されて、いまでは表だって話題にならないようだ。
暴走族の存在によって、多くのオートバイ乗りは多かれ少なかれ風評被害を受けてきた。「バイク乗りにロクなヤツはいない」「バイクの存在は近所迷惑」というような。もちろん、オートバイメーカー、販売店、バイク雑誌などビジネスにも悪影響だった。
同じように「悪質撮り鉄」の存在は、多くの「撮り鉄」や鉄道ファンに風評被害をもたらす。鉄道事業者のビジネスも阻害している。このままでは「鉄道を撮らせない」「カメラを買わせない」「乗車以外で駅に行かない」の新たな「三ない運動」が生まれそうだ。そうなる前に、悪質撮り鉄を弱体化させたい。暴走族が警察の働きで弱体化したように鉄道警察隊を強化して対処してほしい。
さて、ここまで私が「悪質撮り鉄」と「撮り鉄」を書き分けてきたことにお気付きだろうか。「暴走族」と「ライダー」を書き分けるように。
「暴走族」はまだ見掛けるものの、すっかり流行らなくなった。若者の消費の多様化でバイクよりスマホで遊ぶ人が増えたかもしれない。「暴走族」の名はカッコよすぎだから「珍走団」とダサい名で呼ぼうという風潮も功を奏したかもしれない。もはや「暴走族」は恥ずかしい存在になった。
「悪質撮り鉄」と「撮り鉄」は紛らわしいから「悪質撮り鉄」に新しい呼び名を与えたい。「珍走団」にならって「珍撮団(ちんとりだん)」はどうか。新しくダサい名前を与えて、世の中からカッコ悪く思われていると認識させる。これを鉄道業者の厳しい施策と合わせて実施したい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
関連記事
- 西武園ゆうえんちの準備は整った しかし、足りない要素が2つある
西武園ゆうえんちが5月19日、「新しくて古い都市型エンターテイメント」として生まれ変わる。1960年代の商店街を中心に据え、海外から認知度の高い日本発キャラクターを登場させることで、従来の「鉄道沿線遊園地」から「日本型テーマパーク」へ進化を遂げる。しかし、沿線外に訴求するには「あと2つの要素」が必要だ。 - 鉄道模型は「走らせる」に商機 好調なプラモデル市場、新たに生まれた“レジャー需要”
巣ごもりでプラモデルがブームに。鉄道模型の分野では、走らせる場を提供する「レンタルレイアウト」という業態が増えている。ビジネスとしては、空きビルが出やすい今、さらなる普及の可能性がある。「モノの消費」から「サービスの消費」へのシフトに注目だ。 - 「第2青函トンネル」実現の可能性は? “2階建て”構想の深度化に期待
2020年11月、「第2青函トンネル」構想の新案が発表された。2階建てで、上階に自動運転車専用道、下階に貨物鉄道用の単線を配置する案だ。鉄道部分は輸送力が足りるか。急勾配も気になる。だが、新トンネルは必要だ。設計の深度化を進めて実現に近づいてほしい。 - 運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値
富士山登山鉄道構想について、運賃収入年間約300億円、運賃は往復1万円という試算が示された。LRTなどが検討されている。現在の富士スバルラインと比べると5倍の運賃はアリなのか。国内外の山岳観光鉄道を見ると、決して高くない。富士山の価値を認識する良いきっかけになる。 - 中央快速線E233系にトイレ設置、なんのために?
JR東日本の中央線快速で、トイレの使用が可能になることをご存じだろうか。「通勤電車にトイレ?」と思われた人もいるかもしれないが、なぜトイレを導入するのか。その背景に迫る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.