リモート中「サボってないか監視する上司」の、救いがたい勘違い:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
リモートワーク中、PCのモニタリングなど「監視システム」を導入する企業は少なくない。「過重労働にならないように」「生産性が低下しないように」などの言い訳で、部下を監視しようとする上司や経営層に欠けている視点とは。
つまり、
- 部下のメンタルに問題があることに気が付かなかったり、
- 部下の残業時間の多さに気が付かなかったり、
- 仕事の進捗状況の遅れに気が付かなかったり、
なんてことが分かると、管理者としての上司は責任を負わされることになりかねません。
そこで、責任問題にならないように「監視システム」を導入し、「はい! ちゃんと管理したんですけどね〜」と言い訳の材料にして、自分が安心したいだけではないでしょうか。
もっとも、リモートという2次元の世界では、情報量が圧倒的に少ないので「ちゃんとやってるのかな?」と不安になることは、ごくごく自然な感情です。
しかし、監視はいただけません。監視ではなく、信頼。リモート勤務で大切なのは、それまで積み上げてきた「信頼関係」をいかに回復するか? なのです。
「信頼」には、2つの種類があります。
1つは、「相手が自分の期待したことをやってくれるだろう」という、相手の能力に対する信頼。2つ目は、「相手は誠実な人で、良き行動をとってくれるだろう」という、人間関係に関する信頼です。
この2つの信頼関係を築くために、私たちはときに無意識に、またあるときは意識的に、「社員同士のつながり」を育む機会を作ってきました。このような「つながり」は、ソーシャル・キャピタルと呼ばれ、いわば、企業に内在する“目に見えない力”です。人と人のつながりに対する投資がリターンを生み出すことを強調するために、「キャピタル=資本」という言葉が使われています。
もともとソーシャル・キャピタルは、地域格差や貧困などを理解するために地域コミュニティー、国家、社会集団などに対して用いられた概念ですが、ソーシャル・キャピタルが個人の健康状態に強く影響することが分かり、1990年代頃から企業におけるソーシャル・キャピタルへの関心が高まり、世界中で研究が蓄積されました。
そこで分かったのが、ソーシャル・キャピタルが豊かな企業では、社員が生き生きと働き、生産性が高いということ。そういった企業では例外なく、社員がつながるための“時間”と“空間”に積極的に投資していました。目に見えないつながりによって、自分だけの目的の達成を気に掛ける個人の集団ではなく、それを超えた“組織”や“協力グループ”が生まれ、生産性が向上していたのです。
私が行った調査でも、同様の結果が得られています。
社員も会社も元気な企業では、社長自ら社員と「人」としてつながる努力をしていました。社長室にこもっている社長は一人もいませんでした。
元気な会社の社長さんは、会社を歩き回り、社員たちに声をかけたり、昼食を共にしたり、社長室のバーで語り合ったり、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を共有できる“場”を積極的につくり、そこで自分が「話す」のではなく、部下たちの「声」に耳を傾けていました。
そこにあるのは「信頼」です。自分が相手を信頼し、信頼に基づいた行動を取れば、相手も自分を信頼します。人は「自分は信頼されている」と思うからこそ、相手を信頼するのです。
信頼は信頼の上に築かれるのであって、監視が信頼につながることは……ほぼ確実にありません。
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