コロナ禍でも黒字のアパホテル 常識破壊の”強さ”と悲願の10万室が生んだ“功罪”:創業50年(5/5 ページ)
アパホテルが2021年5月10日に創業50周年を迎えた。いまや日本を代表するホテルブランドとして圧倒的な知名度を誇る同社。コロナ禍の中、2020年11月期連結決算で黒字を確保したという発表は、ホテル評論家としても衝撃的だったと筆者は語る。
リブランド店舗の憂鬱
アパホテルは自社で保有する直営施設も多く、スピード感のあるホテル経営・運営をモットーとしてきた。元谷外志雄代表のカリスマ性も広く知られるが、直営施設という条件を鑑みると、意思決定から実現までのスピード感は容易に想像できる。ホテル業界をとりまく環境が激変する中で、孤高のホテルブランドとして存在感を示してきたのには、こうした点も指摘できるだろう。
近年、都心で開業ラッシュの様相を呈しているアパホテルであるが、そうした新しい店舗に注目していると、豪華なロビーに真新しい客室というホテルをイメージする人も多いことだろう。筆者も時々メディアでアパホテルを紹介することもあるが、その際にはやはり新築の店舗を取り上げている。
一方、地方で時々見かけるのが既存ホテルのリブランドだ。“古いビジネスホテルのアパ化”が散見される。看板を掛け替え、内装も“アパ”にリニューアルする。
ビジネスホテルチェーンの巨大化で、地方の独立系や小規模ビジネスホテルは辛酸を嘗めさせられてきた。地方の駅前に立地するビジネスホテルの経営者は「看板がアパホテルに変わるだけで集客力が違うのだから大したもの」と評価する。「ウチも厳しいからアパさんに買ってもらおうか」と冗談交じりで話す。
とはいえ、こうしたリブランド物件は、確かに一見見栄えは良くなるが、経年建物であればあるほど、空調や水道管の刷新まで踏み込むのは難しいだろう。リニューアルはしてあるが、古い建物でどことなく漂う陰気臭さをはじめとして、エアコンの作動音や浴室排水の不備などが気になったことは筆者自身も何度か経験がある。
長らく目標10万室を掲げてきたアパホテル。提携店舗も含むアパホテルネットワークとして10万室は達成された。一方で、こうしたリブランド物件も多く含まれるのは目標達成を掲げ躍進してきた功罪ともいえる。拡大とブランディングのジレンマはアパホテルに限らずホテルチェーン化の大きな課題だ。都心でピカピカに新規開業するアパホテルのイメージであるが、ホテルというハードそのものに着目した場合、クオリティーの均一感は巨大ホテルブランドの課題だろう。
著者プロフィール
瀧澤信秋 (たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)
一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。
日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。
著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。
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