パナソニック“次の100年”のキーパーソン、Shiftall 岩佐CEOに聞く(前編):家電メーカー進化論(7/8 ページ)
パナソニックを2008年に退社して、Cerevoを起業した岩佐琢磨氏。しかし18年設立の子会社Shiftallは、全株式をパナソニックへ売却し100%子会社となった。パナソニック内部へ戻った目的、現在の役割に加え、家電メーカーが生き残っていくために必要な取り組みなどについて、前後編にてお届けする。
どのカテゴリーも、ブームを経て必ず衰退する
パナソニックは100年以上の歴史を持つ老舗家電メーカーだが、そのビジネスは当然一貫していたわけではない。最初は電気が届き始めたばかりの家庭を明るくするための「二股ソケット」から始まり、1950年代には当時三種の神器と呼ばれた白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫などが飛ぶように売れた。
70年代から80年代にかけてさまざまな家電の普及率が90%を超えると、90年代には携帯電話ブームやゲーム機ブーム、2000年代には薄型テレビやHDD・DVDレコーダー、デジタルカメラなどがヒットするなど、時代を追うごとにブームが訪れ、そして去っていった。
「どの企業でも新たなビジネスを立ち上げているため、会社全体のビジネス規模の推移はゆるやかだが、どの事業も基本的にはいつかピークを迎えて衰退する。今の家電メーカーが握っている大きな事業のほとんどは90年代、あるいは70年代や80年代など、もっと前に立ち上がったものだ。それらはもうとっくにピークを迎えており、これから急激に落ち込んでいくと予想される」(岩佐氏)
国内メーカーが以前に比べてグローバルな競争力を失ってしまった理由の一つとして、90年代から一気に立ち上がった携帯電話や薄型テレビなどデジタル化の波に乗り遅れた側面がある。それに比べて白物家電は日本独自のガラパゴス文化もあり、海外メーカーにとって参入障壁があったが、「00年以降は白物家電も、一部は辛い状況になっている」(岩佐氏)という。
「テレビが売れるなら作ればいい。しかしテレビが三種の神器と言われた時代は、ブラウン管テレビを作ること自体が難しかった。だが今は、コンポーネントを組み合わせれば誰でも作れるようになっている。初期のGoProなど、レンズとセンサー、バッテリー、チップセットを組むだけで、誰でも作ることができる」(岩佐氏)
今まさに、誰でも作れるようになった製品の代表格が「携帯音楽プレーヤー」だという。
「携帯型音楽プレーヤーには長い歴史があるが、音楽データを読み取る複雑な機構(テープやMDのヘッド関連)がなくなってしまった現在、どのメーカーの製品を買ってもサイズや性能に大きな差がなくなってしまった。
さらに高音質化の鍵を握る『DAC』というICは、今や誰でも買うことができるので、このICの選択で性能がおのずと決まってしまう。ソフトやデザイン面での差別化は可能だが、一般の方が得られる体験価値は、大手メーカーの高価な製品も、無名のメーカーの安い製品もそんなに変わらなくなっている。そのため、大手メーカーのほとんどが同ジャンルの製品から撤退してしまった」(岩佐氏)
携帯オーディオプレーヤーの市場が縮小した理由は、もちろんスマートフォンやストリーミングサービスの普及などを含む複合的なものだが、前述の理由により、デジタルオーディオプレーヤーは00年代後半時点で、すでに、誰でも作れてかつ性能も頭打ちになっていたのだ。
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