元電通マンが島根で農業を志す理由 「実質リストラ」炎上の業務委託、当事者の“今”:「八方ふさがりからの脱出」(2/3 ページ)
電通を退職した社員が、業務委託契約を結ぶ──このプロジェクトに対し、ネット上で「体の良いリストラではないか」との批判が巻き起こったのが1月のこと。それから約5カ月が経過し、実際に退職したは今、何を思うのか。5人に話を聞いた。
S氏(仮名)は、電通が総合マーケティング会社にシフトするなか、「昔ながらのマス広告の経験しかない自分に、今後の居場所はあるのか」と感じていた。65歳まで勤め続けても、その後、自分はどうしたらいいのかという危機感もあった。「八方ふさがりを脱出するためのチャレンジは少しでも早い方がいい」と考え、NHを選んだ。一定の業務委託の対価として固定報酬がもらえる点も魅力的だったという。
1月に島根県に移住し、自営農業を始めるために苺の師匠からマンツーマン指導を受けている。並行してNHメンバーと共に地元の企業や個人に対し自主提案を始めたところだ。農業の生産のみに限らず、流通やコミュニケーションの部分もNHメンバーとチャレンジしていきたいと語る。
クリエイティブディレクターの赤松隆一郎氏は、ミュージシャンとしても活動してきた。広告と音楽の二輪でやっていくうち、勤務地や副業といった縛りから自由になりたいと感じるようになっていた。ここ数年、先輩や好きなミュージシャンが相次いで亡くなり、「自分もいつ死ぬか分からない」と思いNHに参加した。今までであればスケール感の問題で受けづらかった、地元・愛媛の観光PRの仕事をしており、地元の役に立てることに喜びを感じている。音楽活動についても、NH内でレーベルを作りたいという構想がある。
登壇者の明治大学教授・野田稔氏は、5人の話に企業に勤めることの閉塞感と「今始めなければ」という切迫感が共通することを指摘した。
「実質リストラ」なのか?
NHメンバーのうち、個人事業主になったのはおよそ6割、法人代表になったのは約4割だという。NHと業務委託契約を結ぶメンバーは5月27日現在、217人。オリンピック終了後に合流するメンバーを含めると230人前後になる。平均年齢は52歳、いわば「リストラ適齢期世代」である。
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