もう「人事は信用ならない」とはいわせない! シロウト人事の成功例に学ぶ、現場に信用される人事部門の作り方:「現場の抵抗」は人事にも問題あり(3/4 ページ)
「人事は信用ならない」と現場に思われがちだが、いったいその原因はどこにあるのか。現在「マイクロ人事部長」として複数社の人事に携わる筆者が、「シロウト人事」だったころの成功事例とともに、現場に信用される人事の作り方を解説する。
「現場の抵抗」に嘆くよりも、やるべきことは?
筆者はこれまで、多くの人事の方から「現場部門とのコミュニケーションがなかなかうまくいかない」という相談をいただいてきました。具体的な内容を詳しく聞いてみると「新しい人事制度を導入したいのだが、現場部門がいうことを聞いてくれない」「人事がお願いする施策に現場が抵抗してきて困っている」といった「人事側発信に対する現場部門の反応」に偏っていることが多いように感じます。
そして、ご相談いただいた方に「現場部門は、なぜ反発をするか聞いてみましたか」、こう質問すると、明確にその理由を答えられない人が多いのです。この課題の本質は、人事施策の内容や現場部門と人事の関係という問題ではなく、そもそも人事の「現場部門の情報量が足りていない」ことだと考えています。
筆者が行った「社員とのあいさつ」は、とても単純なことかもしれません。しかし「あいさつ」に「会話する時間」という一定のルールを課すことで、結果として現場部門の状態をヒアリングすることにつながり、手元にある「現場部門の情報量」が、圧倒的に増えてきたのです(当時はそんな副産物があるとは思ってもみませんでしたが……)。人事である自分自身にルールを課すことにより、それぞれの現場社員の状態に注目するようになり、「どんな人なのか」「どんなことが起こっているのか」ということに興味を持って話を聞くことにつながりました。
人が相互に強い信頼関係を持つためには「お互いの情報量」が必要といわれています。人は、自分の情報を持っている人(自分のことをよく知っている人)に対して信頼関係を結びやすく、そして自分も相手の情報を持っていることで、お互いの信頼関係が強まっていきます。相互の情報量が多ければ多いほど、信頼関係が強くなるのです。
日頃からお互いの情報量を多くしておけば、現場部門に多少負荷がかかる人事施策を展開するときにも、意義を理解して、協力してくれることもあるかもしれません。昨今企業で導入が進み始めているHRBP(HRビジネスパートナー)も、現場部門の情報をつかみ信頼関係を構築することに大きな役割があると筆者は考えています。
施策の実行はゴールではない
人事がさまざまな施策を展開するときに陥りがちなのは、「人事施策をやること自体が目的化してしまう」ことです。もちろん、経営者からのプレッシャーを日々感じることも多々あるでしょう。ただでさえ忙しい人事は「施策を進めること」にいつの間にか目的がすり替わってしまうことがあるのです。
時間をかけて整理してきた人事施策を、いざ現場部門に展開しようとすると、多くの反発に当たります。今までやってきたやり方を変えることは、大半の社員にとって「面倒くさい」と感じられるはずです。「これまでやってきたやり方でいいのではないか」「今までと変わることで新しい仕事が増えてしまうのではないか」――現場部門からのこうした反発に疲弊してしまい、いつの間にか「やること自体が目的化してしまう」ことにつながってしまうのです。
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