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国内乗用車メーカー7社の決算(前編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

例年ゴールデンウィークが明けると、国内自動車メーカーの通期決算発表会が相次ぐ。業界全体に対しての今年の総評を述べれば、コロナ禍の逆境にもかかわらず、各社奮戦し、期首に懸念されていたような危機に陥ることなく、日本企業の底力を見せつける結果になったと思う。ただし、1社だけ惨憺(さんたん)たる結果のところがある。

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異常すぎるトヨタ

 トヨタは今期の決算分析で扱いが最も難しい。端的にいってチート級の滅茶苦茶な結果を叩(たた)き出していて、常識的な範疇(はんちゅう)の言葉ではどうにも解説できない。100点満点で1万点とか、そういう論理を超越した次元である。

 おかしい所だらけだが、中でも特におかしいところを挙げれば、まず売り上げがおかしい。決算というのは、基本的には対前年比でプラスかマイナスかを判断するものだ。前年が良すぎたので「減収」にこそなってはいるものの、少し乱暴に言えば標準値の範囲に収まっている程度の差しかない。1Qが壊滅的だったにもかかわらずだ。

 これは、コロナ禍でラインが止まっている間に、下半期での需要反動を予測し、ロケットスタートに備えて、増産態勢をあらかじめ整えていたからなのだ。しかし米国ではコロナ禍で世界大戦級の死者が出て、国際社会全体が先行きの閉塞感でにっちもさっちも行かない中で、そんな判断ができるのは尋常ではないし、実行してみせるのはもっと尋常ではない。

 税引前利益もおかしい。普通は売り上げが落ちたら、それ以上に利益は落ちる。それが当たり前だ。そこで利益が増えるとしたら、自由落下運動の最中に手で空気を搔いて、落下を止めるどころか上昇を始めたような漫画じみた現象で、ルパン三世の世界である。


売上高と営業利益は前年比マイナスだが、営業外損益がほぼ倍増して、税引前利益と純利益はプラスとなった。営業外損益は7346億円にも上るが、その多くは「受取利息および受取配当金」とみられる。つまり、関連会社からの配当金や、関連会社株の売却益が純利益増に貢献した可能性が高い

 世界が崩壊の危機に瀕して、先進諸国を巨大な経済ショックが襲う局面で、利益率を大幅改善しているという点では、もはや魔法でも使ったのかと言わざるをえない。

 ということでトヨタの決算はもうわけが分からない。個別には種も仕掛けもあるが、それが全部上手くいくなんてのは打率10割のチートである。

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